『第650話』 【食欲不振や吐き気】消化の悪い物控えめに

食欲がない、ご飯がおいしく感じられないという人の場合、背景に心配事やストレスを抱えていることがある。胃そのものにはこれといった異常がないのに、食べることに喜びや満足が得られないのは、脳からの指令が影響している可能性がある。

大勢の食事に慣れている人は一人きりになると急に食欲をなくしたりするし、緊張する上司との食事では味を楽しむどころか、もたれたり、胃痛を発したりする。

胃と脳は、自律神経という自分の意思ではコントロールできない神経でしっかりと結ばれている。脳が受けたストレスはそのまま胃に反映され、食欲不振や胃のむかつきなどになって現れる。

性格的に不安感を抱きやすい人は無意識に空気を飲み込みやすく、食事をしなくても、いつもおなかがはっているような感覚を持つことがある。このようなときは抗不安薬が奏功したり、心療内科での治療がうまくいくことがある。

抗ドパミン薬と呼ばれる薬は、自律神経の一つである交感神経の中枢に作用し、胃や十二指腸の粘膜の血行をよくするとともに、精神的にリラックスさせる効果もある。原因によっては、こうした薬と胃腸薬を併用した方がよい場合もある。

成分はスルピリドやメトクロプラミドと呼ばれるもので、後者は普通、吐き気止めとして使われる。注意すべき副作用には手指の震えや口のもつれ、便秘、ふらつき、めまいなどがある。女性では月経の異常や乳汁分泌、男性では乳首のはれが起こることがあるので、このような症状が出たときには主治医や薬剤師に話してもらいたい。

脂っこい物を食べ過ぎると、強い吐き気をもよおすことがある。これは脂肪分の多い物を食べると、CCK(コレシストキニン)という消化ホルモンが多く分泌されるために起こるのではないかと考えられている。まだ研究途中だが、CCKは末梢(まっしょう)性満腹信号物質で、胃の働きを抑え、同時に脳に作用して不安などを引き起こし、これが吐き気を引き出すというわけだ。

いずれにしても胃症状があるときは、消化の悪い物や脂肪の多い肉類は控えめにすべきだ。また薬物療法はもとより、ストレス発散の対策も必要だ。