『第648話』 【薬同士がケンカ?】数種類の服用、問題なし

突然の病気で数種類の薬を飲むことになった人から「こんなにたくさんの薬を、一度におなかの中に入れてよいのか」という質問があった。ほかにも風邪薬を飲むときは、いつも飲んでいる薬をいったん中止するという人もいる。

多分、さまざまな薬が胃の中で溶けて、それぞれが混じり合いケンカでもするイメージを持っているようだ。薬同士などの飲み合わせが悪い場合は薬剤師が確認し、薬の変更を主治医にお願いすることがある。OTC薬(大衆薬)を買うときには、薬剤師に相談することも必要だ。

薬にも、多少は胃を刺激するものがある。こういう場合はあらかじめ胃を守る薬を1、2種類入れるため、これで既に種類が増えてしまう。ほとんどの内服薬は、胃の中に到達すると胃のぜん動運動によって少しずつ壊れ、溶かされて、小腸の上部から吸収される。

血栓(血液の塊)を予防するアスピリンのように胃に障害をもたらすものでは、胃では溶けず腸に達してから溶けるよう工夫されているものもある。

小腸の上部から吸収された薬は、門脈という血管を通って肝臓に到達する。肝臓ではさまざまな酵素が薬を分解し、一部を排せつ、残りは血液に乗って全身を巡る。そして、必要としている細織に入って、受容体に結合し、ようやく薬の効果を発揮する。

このように薬は分解されて形を変えたり、そのままの形で、それぞれが必要な場所で取り込まれるので、一度に数種類の薬を飲んでも問題はない。

また、すべての薬が使われるわけではなく、必要のなかった分はまた肝臓に戻って分解され一部を体外に排せつ、再び血液に乗って全身を巡るということを繰り返しながら薬の効力を失い、体外に排せつされていく。

不整脈の薬や、心臓の冠動脈のけいれんを抑えて夜間から明け方にかけての突然死を予防する薬などは、血液の中に一定の濃度で溶けていることが効果発現の条件だ。そのため、飲む回数をきちんと守る必要がある。

薬は主に肝臓を通って便から排せつされるほか、腎臓を通って尿からも排せつされる。薬を長期にわたって飲んでいる人は、薬が肝臓や腎臓を疲労させていないか、このまま飲み続けてよいのか、チェックする必要がある。これは血液検査で分かるので、特に高齢者は定期的に調べてもらう必要がある。