『第645話』 【抗菌剤】増殖を止め感染症治療

薬局で処方せんがなくても入手できる抗菌剤は、主にぼうこう炎などに使うナリジクス酸だけだ。しかし、昨年改正された薬事法によって、処方せんを必要とする薬になってしまう可能性が高い。そのため製薬企業は、製造を中止したり、製造量を調整しているようだ。

ナリジクス酸は、戦後まもない1948年に合成された。その後、62年になって単純性尿路感染症の約7割を占める大腸菌などのグラム陰性かん菌に効果がある薬として開発された。初期のペニシリンは化膿(かのう)を起こすブドウ球菌などのグラム陽性球菌には効果があったが、グラム陰性かん菌にはあまり効果がなかった。

ナリジクス酸は、微生物が産生するペニシリンなどの抗生物質とは違い、秦佐八郎が10年に梅毒の治療薬として発見したサルバルサンと同じく、化学的に合成された抗菌剤だ。

ナリジクス酸や同種のピロミド酸は、キノロン系あるいはピリドンカルボン酸系抗菌剤に種別する。これらをオールドキノロン系と言うことがある。オールドがあるということはニューキノロン系に種別する抗菌剤があるわけで、現在はこれが主流となっている。

ニューキノロン系抗菌剤はナリジクス酸にフッ素を結合させた薬で、こうすることによって、グラム陰性かん菌だけではなくグラム陽性球菌にも効果を広げた。専門用語で、さまざまな細菌に対して抗菌作用を持つようになることを抗菌スペクトルが広がったという。

抗菌スペクトルが広がれば、病原菌を特定できなくても感染症治療が行えるということになるのだが、そう簡単にはいかず、逆に耐性菌を生んでしまう温床になってしまっているのが現状だ。

キノロン系抗菌剤は、細菌がDNAを合成するときに使うDNAジャイレースという酵素の働きを阻害して、増殖できないようにしてしまう。人では、DNAトポイソメラーゼという酵素が同じ働きをしているので、人の細胞には作用せずに細菌だけを殺すことができる。ちなみに、DNAトポイソメラーゼの働きを阻害する薬は、抗がん剤として使用されている。

ニューキノロン系には、制酸剤と併用すると吸収が阻害されたり、光が当たる皮膚の部分に炎症が起こる光線過敏症や解熱鎮痛薬との併用でけいれんが起こるものもあるので、よく説明を聞いて使用してもらいたい。