『第644話』 【時間薬理学】治療の一歩は病識から

胃かいようの治療中だが、この薬は寝る前に服用してくださいと言われた。確かに、ストレスからきたかいようだとは思うが、眠れないということはない。この薬は睡眠薬なのか?という問い合わせがあった。

胃かいようという病気は、夜に形成されやすい。真夜中の午前2時ごろに胃酸の分泌が多くなるため、これが刺激となって胃の粘膜を荒らしたり、かいよう部分の修復を邪魔してしまう。この胃酸の分泌時間に合わせて胃酸を止めたいために、就寝前に胃酸分泌抑制薬を服用してもらう。

コレステロールも夜の間につくられるので、高脂血症治療薬も夕食後に服用することが多い。

このように病気の仕組みや人の生理的機能を考えて、薬の服用時間を病態と合わせることで、薬の効果を最大限に発揮させようという考え方を時間薬理学という。

生体は、ある一定のリズムを持っている。女性ホルモンの分泌は、26-28日という周期で変化しているし、副腎皮質ホルモンは朝多く分泌される。また、「寝る子は育つ」とはよくいったもので、成長ホルモンは夜に分泌されている。

人の生体は日内変動、月間変動あるいは年という単位で変化して、複雑にバランスを保って、命をはぐくんでいる。もう少し付け加えれば、老化も自然な変化と考えると病気とはいえないということになる。

女性が栄養クリームなどの基礎化粧品を使うのであれば、夜しっかりと行なった方がいい。それは、皮膚の透過性が昼間よりも夜の方が良くなるからだ。深酒をしたときも、夜のお肌の手入れだけは忘れない方がいい。

起床後には、血圧が上がり気味になる。また、血液が固まりやすいために、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞は起床してから2時間以内に起こる場合が多い。こうした傾向のある人は、寝る前に水を少し飲むといい。

自分の病気の治療は、病気のことをよく知ることから始まる。これは薬識(薬の知識)に対して、いわば病識(病気の知識)といえるだろう。薬局での服薬指導が、この病識の話から始まることがよくある。この理解がないと本来の薬剤師の服薬指導に入っていけない。

病識の伝授は医師の領域であり、ムンテラ(病状説明)をしっかりと受けることが必要だ。病識を持てば、なぜ薬を服用しなければならないのか?その理由が理解できる。