『第643話』 【自己責任】リスクも含めて判断を

イラクで拘束された日本人の人質が救出されたのは喜ばしいことだ。しかし、自衛隊撤退を要求されて国民に迷惑をかけたという視点から、人質となった人たちの「自己責任」が問われ、社会的議論へと発展している。

人質となった人たちはそれぞれに、数々の社会的事象を学び、自分自身の信念に則して取るべき行動や生き方を自己決定したはずで、問われるべきはどのような判断理由によって決定し、家族や社会に対する合意を得て紛争地区に入ったのか、ということではなかろうか?

薬の電話相談を受けていると、こうした行動と責任、権利と義務、自由と自己規制、断念と覚悟といった課題を常に念頭に置き、そして悩みながら回答している。

四苦八苦に、五蘊盛苦という苦がある。知識が豊富で体力に満ちあふれている人ほど苦悩が多くあるという教えだ。知る権利があれば、知らせてもらいたくない権利もある。副作用についての質問が多く寄せられるが、副作用を知ることで薬が怖くなって服用しなくなれば、治療の妨げになってしまう。情報提供をすることがかえって、悩みを増やしてしまうことになりかねない。

副作用について説明するのは、副作用が起こっていることをいち早く察知し、早期対応が図れるように知恵を持ってもらうのが目的だ。

子供のワクチン接種についての相談では、予防接種をした方が良いか回答を求められる。現在のワクチンは有用性の方がはるかに上回っていて、危険性はほとんどないものの重大な副反応が起これば、その結果は100%の確率として受け止められることになる。

厚生労働省はこうしたリスクに備え、サリドマイド、スモンなどによる健康被害を教訓に、適正な医薬品の使用によって被害を受けた場合を想定して医薬品被害救済制度を設け、ワクチン接種による被害も対象としている。

さまざまな医療を受けるに当たっては、必ずこうしたリスクも含めて評価し、判断することが求められる。「自己責任」といわれても困惑するかもしれないが、患者中心の医療を実現していくためには、多くの専門家の意見や情報を集め、これを理解し、納得した上で、医療を受ける者が最終判断をしていく必要がある。