『第642話』 【コレステロール】「悪者」イメージは誤解

コレステロールは、肥満というイメージでとらえられることが多い。しかし、実際は高くても低くてもだめ。適正な値がある。

コレステロールは、ブドウ糖や脂肪酸からアセチルCoA(コエンザイムA)、アセトアセチルCoA、3-ヒド口キシ-3メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)、メバロン酸、スクワレンという順番で合成されていく。

コレステロールの合成は、HMG-CoAからメバロン酸に代謝させるHMG-CoAレグターゼという還元酵素が重要な鍵を握っている。体内では、70-80%のコレステロールが合成されている。スタチン系といわれる高脂血症治療薬は、この酵素の働きを阻害してコレステロールの合成をできなくして、血清コレステロールの値を下げる仕組みになっている。

コレステロールは、ステロイド骨格といわれる基本構造を持っている。これは人にとって非常に重要な分子構造で、これがなくては生命を維持することができない。

なぜなら副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)、血液中のナトリウムやカリウムなどの電解質を調整する電解質コルチコイド、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)といった女性ホルモン、テストステロン(男性ホルモン)、あるいは骨代謝に関係していて紫外線が当たると皮膚下で作られるコレカルシフェロール(ビタミンD3)はすべて、ステロイド骨格を持つコレステロールから作られるからだ。

このほかにも、コレステロールが肝臓で代謝されると胆汁酸となって、脂質の消化吸収に関与する。特に乳児の細胞や神経の発達には欠かせないために初乳に多く含まれていて、同様に鶏卵に多く含まれるのも納得のいくことだ。

従って、コレステロールが悪者と考えるのは間違っている。では、適正な値はというと議論が少々分かれる。一般的には総コレステロール値(100ミリリットル当たりのミリグラム)が220以上だと高脂血症という判断になる。しかし、ほかに疾患がない場合は260程度までであれば、死亡率はむしろ低いとするデータもある。

現在は肥満、喫煙、心疾患、高血圧、糖尿病といった危険因子の数によって180-240の間で目標値を設定して、治療計画を検討することが多い。そうした情報も主治医から聞いて、病気に対する知識を得ることが重要だ。