『第640話』 【薬の剤形】TTSは説明を受けて

 薬の成分もさることながら、どのような剤形をしているかが薬にとって重要なことだ。剤形は、散薬、錠剤、注射剤のように薬を成型し、薬の成分をどのようにして体内に吸収させるのか、あるいは疾病部位に作用させるかを研究してさまざまに考案されてきた。n 薬の公定書に当たる日本薬局方に、製剤総則という項目があり、ここには、27種類の剤形規格が載っている。しかし、口腔内(こうくうない)でゆっくりと薬剤を溶かして口腔の粘膜から成分を吸収させようとするバッカル錠など、日本薬局方に定義と規格が無い剤形も登場してきている。n 中でもパップ剤は外国由来ではあるが、日本独特の剤形として育ってきた剤形だ。米国の日本薬局方に当たるUSPには、パップ剤の規格が無い。筋肉痛などの消炎・鎮痛に使う貼(は)り薬とか湿布剤と一般に呼ばれている。また、パップ剤とは別に硬膏剤(こうこうざい)から発展した貼付剤(ちょうふざい)という剤形規格があり、これは、絆創膏(ばんそうこう)のようなテープのような形状をした剤形になっている。n パップ剤の語源はオランダ語だ。文献によれば、オランダの医師シーボルトが日本に伝来させたらしい。カイロや氷のうなど冷温の刺激を与えて治療する療法を罨法(あんぽう)というが、炎症や充血を治療する罨法剤という意味だ。もともとパップはオートミールのようなかゆ状食品のことで、泥状にした薬剤を布に塗って、患部に貼って痛みを取るといった使い方を連想させる。n 現在は、さまざまな成分を含むパップ剤と貼付剤があり、その目的も筋肉痛などの痛みを和らげるといった同じ効能・効果の薬もある。どちらも皮膚から薬の成分を吸収させようとする考え方は同じだ。n 貼付剤の中には、TTS(transdermaltherapeuticsystem=経皮吸収型製剤)といってニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ホルモン剤などの成分を含み、これを徐々に皮膚から吸収させる薬がある。二卜ログリセリンや硝酸イソソルビドは心臓の冠状動脈を広げて、狭心症による胸の痛みを抑える薬だ。これを単なる痛み止めだと思い込み、筋肉痛や腰痛にも使えると勘違いをしている人がいる。これは危険なので、こうした薬を使用している人は、十分に薬剤師から説明を受けて、使用してもらいたい。n