『第639話』 【感染症と消毒】情報混乱、正しい理解を

 感染症の話題は尽きない。バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、鳥インフルエンザ、新型コロナウイルスによる新型肺炎(SARS)とさまざまな感染症名が報道されている。n また、これに対する消毒薬、治療薬、予防対策などが併せて報道されるためか、消毒剤と農薬が混同されるなど、当医薬品情報センターに寄せられる相談内容から、一般社会では情報が混乱している様子がうかがえる。n 消毒剤は農薬と違い、残留性を期待して使用するものではない。また、人体に使用できる消毒薬とできないものがある。農薬を人体や鶏舎などの消毒に使うことはない。使用すれば、人体や家畜に対して直接的、または間接的に害があり、危険だからだ。n 「消毒」という言葉には定義がある。それは、「病原性微生物を殺滅するか除去して、感染力を無くすこと」ということだ。従って、細菌が全くいない状態ではなく、消毒後も非病原性の細菌などは存在している。細菌を全くいない状態にする意味で使うのは「滅菌」という言葉だ。滅菌を行うためには。特別な器具と設備環境が必要で、日常生活下で滅菌化することはできない。n 一般に「殺菌」という言葉が使われるが、この言葉は非常にあいまいな言葉で、外国では特定の細菌名を先に挙げて、「MRSAの殺菌」といった表現方法として使う。n 「ばい菌は、どこにでもいるのですか?」という質問もあり、「その通りです」と答える。細菌の大きさは1ミクロン程度で、赤血球の7ミクロンよりも小さく、光学顕微鏡でなければ見ることができない。ウイルスともなれば、さらに100分の1程度の大きさで、見るためには電子顕微鏡が必要だ。n このような小さな生き物はどこかれでも入り込む余地がある。特に多くの感染症患者が治療を受ける医療施設では、入院患者間や外来患者間での感染経路があり、院内感染防止対策に積極的に取り組み、その手順を定めた院内感染防止対策マニュアルが各病院ごとに作成されている。そして、このマニュアルを順守していくことが院内感染を防止していく上での第一歩となっている。n