『第636話』 【二つの膵炎】急性と慢性は別の疾病

 膵臓(すいぞう)は、血糖値を調節するインスリンとグルカゴンを分泌する内分泌器官と、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなどの消化酵素を含む膵液を十二指腸から分泌する消化酵素分泌器官として、重要な両者の機能を担っている。n アミラーゼは、炭水化物(でんぷん類)を糖に、リパーゼは脂肪を脂肪酸とグリセリンに、トリプシンはタンパク質を分解してアミノ酸にする。消化酵素が膵臓だけから分泌されるわけではないが、膵液がなければ三大栄養素の炭水化物、糖質、脂肪を消化できなくなってしまう。n 膵臓疾患の代表に急性膵炎と慢性膵炎がある。同じ「膵炎」がついているので急性から慢性に移行するのだと思っている人が多いが、過度の飲酒、胆石などから起こる急性膵炎と、膵臓の組織が徐々に破壊されていく慢性膵炎は、別の疾病と考えていい。ほとんどの場合は、急性膵炎を経ないで慢性膵炎を起こす。n 急性膵炎は一過性の疾病で、絶食・絶飲水を基本とした治療によって完治が可能で、慢性膵炎に移行することはほとんどない。n 慢性膵炎は、正常な膵臓の細胞が破壊されて、繊維化していくので、膵臓としてのさまざまな機能が徐々に失われ、膵管の変形や膵結石ができて痛みや炎症が起こる。特に、糖尿病を合併していくことが心配で、血糖値を上げるグルカゴンの分泌も悪くなるので、低血糖も起きやすく、管理は難しくなる。食後数時間たってから上腹部に痛みがあり、上を向いて寝るとこの痛みが強くなり、座ると軽減するといった症状であれば、早めに医師の診断を受けた方が良い。n 統計的には男性で長年の大量飲酒によることが多く、飲酒を原因とする人が6割を占める。このほか、胆石も原因となるが、自己免疫疾患や原因がはっきりしないといった人も3割程度いる。n 薬物治療には、膵臓からの膵液分泌を軽減し、膵臓の負担を減らすために通常の3~4倍量の消化酵素剤を使うことがある。また、膵臓を守るためにタンパク分解酵素阻害剤や胃酸分泌阻害剤が併用される。n 病状期ごとに治療方法が異なり、絶対安静が必要で、絶食して、血管から栄養分を補給しなければならないこともあり、慢性膵炎の病態を理解して、医師の指示に従って治療することが重要な疾患だ。n