『第630話』 【アロマセラピー】香りの影響はさまざま

五官は五感、すなわち視覚、聴覚、味覚、嗅(きゅう)覚、触覚をつかさどる感覚器官をいう。n 目や耳で音楽や絵画など芸術を楽しむ。食事の時には視覚や味覚、嗅覚、触覚が連動して働く。美しい盛り付けや香ばしい香りなどは食べ物をいっそうおいしく感じさせる。そして、緩やかに流れるバックグラウンドミュージックがあれば恋の告白もうまくいく。n 鼻腔(びくう)粘膜の一部分に密集している嗅神経繊維で出来ている嗅覚神経は、人によって著しく異なる器官だ。食欲をそそったり、食べて良いものかどうかの判断に嗅覚を使う一方で、ニキビを搾った指のにおいをかいだり、耳あかのにおいをかいでみたりする。ある人には堪え難いにおいでもほかの人には妙に快感だったりする。n 訓練で嗅覚は鋭くなり、専門分野でも役立つ。医師は患者の呼気や発疹(はっしん)性皮膚疾患のにおいが診断に役立つことがあるし、薬剤師も薬のにおいをかぎ分けることができる。n 嗅覚は脳の一部と言う人がいるほど脳と密接に結びついている。うっとりする香りや挑発する香り、懐かしい場所を思い出させるにおいなど香りをかぐことで精神に与える影響はさまざまである。庭先にある植物ではラベンダーやローズマリーが、気持ちを落ち着かせるものと元気にするものの代表として特に有名だ。ライラック、キンモクセイ、ジンチョウゲ、クチナシなどが咲き乱れる中を散歩したことがある人なら、自然にわき上がる幸福感を感じたに違いない。n 顆粒(かりゅう)状になった漢方薬を飲む際にも、いったんお湯に溶かして服用するのを勧めることがある。もちろんそのまま飲んでも良いが、お湯を加えると溶けやすくなり、素早く拡散、吸収されることはもちろん、立ち上る湯気の中にも薬効成分が溶け出して、それが鼻腔粘膜から脳へと一気に到達し、一つの効果が引き出される。n インドの家庭ではカレーの香辛料として知られるナツメグやクローブをたくさん箱に入れ、ふたをせず廊下に置いておくという。通るたびに気持ちに生気がよみがえるからというのが理由だ。n 感覚を喜ばせる行為として目や耳はよく使われるが、鼻という器官を使うことは少ないように思う。心地よい香りとの出合いは気持ちをさわやかにそして安らかに、また豊かにできるメディケーションの一つだ。n