『第624話』 【秋の味覚】高脂血症にサバが有効

秋ナスと秋サバは嫁に食わすなー。秋の味覚を表現する代表的な言葉がある。春から初夏にかけて産卵し、その後十分に栄養を取って、ちょうど秋ころに脂が乗ってうま味が増してくるからだ。

サバ、マグロ、イワシ、サンマなどの魚類には、EPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富に含まれている。マグロでは、頭部やトロの脂身に多く含まれているため、カマ焼きのような調理方法をとらないと摂取しにくい。その点、サバ、イワシ、サンマは、身に含まれているので、摂取しやすい。

EPAは、閉塞性動脈硬化症に伴うかいよう、疼(とう)痛、冷感の改善あるいは高脂血症の治療薬として使われている。サバ100グラムには、EPAが1,210ミリグラム、DHAは1,780ミリグラム合まれていて、1匹食べれば、治療量に近い量が摂取できてしまう。

EPAやDHAが高脂血症に効果があることは、北極圏に住むイヌイットの疫学調査から明らかになった。イヌイットは脂肪分を多く含むアザラシの肉などを主食とし、野菜など食べない。しかし、心筋梗塞が非常に少ないことが知られていた。イヌイットが都市部に移り住むと、途端に高率で心筋梗塞になって死亡した。このことから遺伝的素因ではなく、環境要因に心筋梗塞を減らす要因があると推測された。そして、アザラシの餌となっている魚介類に含まれるEPAやDHAを間接的に摂取しているためであることが突き止められた。これは、食生活習慣が疾病と深くかかわり合っている典型例だ。

「サバの生き腐れ」と言われるように非常に痛みやすい魚だ。サバにはヒスチジンが多く含まれている。ヒスチジンはヒスチジン脱炭酸酵素を出すプロテウス属などの細菌によってヒスタミンに変わり、じんましんや下痢などのアレルギー様症状を起こす。治療には抗ヒスタミン薬を使う。

また、同様の脱炭酸酵素で魚類に含まれるアミノ酸がアグマチン、チラミン、トリプタミンなどに変わり、ヒスタミンの作用を増強する。これを防ぐには、捕れたサバを6時間以内に10度以下の冷蔵保存として、腐敗を防ぐ。また、アニサキスなどの寄生虫もいて、酢で締めるのはこうした理由がある。

さて今夜はご免いただいて、秋の味覚を話題に、秋田の地酒で一献といきたいところだ。