『第621話』 【イオンチャンネル】仕組み解明、成果に期待

今年のノーベル化学賞は、水だけを通すイオンチャンネル(通路)を突き止めたピーター・アグレ米ジョンズ・ホプキンズ大学教授とカリウムイオンチャンネルの立体的構造を解明したロデリック・マキノン米ロックフェラー大教授が受賞した。

血管平滑筋を拡張させると血圧が下がる。この働きを持つ薬にカルシウム拮抗剤がある。カルシウム拮抗剤という名から、カルシウムを服用してはいけないのではないかとか、骨粗しょう症になってしまうのではないかといった不安を抱く人がいるが、心配はいらない。血管平滑筋や心筋にはカルシウムイオンチャンネルというカルシウムイオンだけを細胞内に入れる入り口がついている。

細胞外と細胞内のカルシウムイオン濃度差は細胞内の方が10,000倍低い。細胞内のカルシウムイオン濃度がホルモンや神経の働きで増加すると、血管平滑筋や心筋が収縮する仕組みになっている。

血管平滑筋や心筋を支配しているのは自律神経だ。自律神経には交感神経と副交感神経がある。自律神経は人の意思と関係なく働いていて、運動神経のように筋肉を自由に動かすことはできない。好きな人の前に出ると赤面してしまうが、これは無意識のうちに交感神経が興奮して心臓が高鳴り、血流量が増え、その結果顔が赤くなるからだ。従って、これを意識的に防ぐことはできない。副交感神経はこの作用とは反対の働きをする。この両者の働きのバランスが崩れると自律神経失調症となって、不定愁訴を訴えるようになる。

自律神経末端にもカルシウムイオンチャンネルがある。交感神経末端でカルシウムイオンが取り込まれるとノルアドレナリン、同様に副交感神経末端からはアセチルコリンが放出されて、それぞれの効果が発現する。

こうした仕組みの解明は1960年代になってからだ。神経線維の興奮ではナトリウムイオンチャンネルがかかわって麻酔効果を発現。腎臓では、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンなど多くのイオンがかかわっている。

人体の生理的な仕組みは、原子レベルで働いていて、実に巧妙だ。現状においてもまだまだ分からないことが多く、さらなる研究成果がより効果的な新薬を生んでいくことを期待したい。