『第620話』 【前立腺肥大】生活の質高める薬選択

男性にしかない臓器に前立腺がある。そして、50歳以上になると多くの男性に前立腺肥大が発症してくる。夜間何度も排尿があったり、出そうと思っても出にくい、残尿感がある、間に合わずにもれてしまうなど程度の差はあるが排尿に問題が生じる。

前立腺肥大は予防や完全に元通りにするということが難しい。従って、この程度なら普段の生活でも我慢できるといったような状態まで持っていくことが目標となる。

夜中に3度トイレに起きても、戻ってすぐ眠れる人であれば、不便を感じることはなく、睡眠薬は必要としないだろう。しかし、起きたことがきっかけとなって不眠傾向になれば、このような生活が一生続くのは苦痛と感じる人もいる。

本人の思う症状と実際の肥大の程度には個人差が大きく、どのくらい進行しているのかは専門医に見極めてもらう必要がある。主治医は、生活の質そのものを高めるように薬を選択してくれる。

はじめは前立腺が肥大することにより、尿道が圧迫され、尿が出にくくなる。また、肥大した前立腺がぼうこうを刺激して何度も排尿したくなる。健康な人なら1日5~6回の排尿だが10回以上、また夜間3回以上なら頻尿と診断される。

ぼうこうに尿がたまって尿が出にくくなれば細菌感染がおこりやすくなり、ついには自力で排尿できなくなる。このような場合は肥大した部分を手術で取り除く方法がとられる。

前立腺肥大の場合、即効性のあるα1遮断薬が第一選択薬だ。2週間くらいで効果が表れれば、使用を継続する。この薬は血圧を下げる作用もあるので、高血圧の薬を飲んでいる人は起立性低血圧に注意する。

また前立腺の肥大が進行していくときは男性ホルモンが関係しているので、抗アンドロゲン薬(抗男性ホルモン薬)を使うこともある。この薬は前立腺がんを隠してしまうことがあるので定期的に腫瘍マーカー(PSA=前立腺特異抗原)テストをする必要がある。

前立腺の肥大そのものは縮小できないが、炎症やむくみ、夜間の頻尿を改善するものとして八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、猪苓湯(ちょれいとう)の漢方製剤も使用される。

OTC薬(大衆薬)の胃腸薬や不整脈治療剤などにも尿を出しにくくする成分が含まれているので薬局・薬店には「お薬手帳」を持参し、現在服用中の薬を必ず薬剤師に知らせ、こうした疾病治療中に使用できるOTC薬か助言を求めてもらいたい。