『第617話』 【E型肝炎ウイルス】薬物療法は脇役的存在

肝炎というと、輸血や針刺し事故によって起こるB型肝炎やC型肝炎を思い浮かべる人が多い。確かに、血液製剤などによる報道があってこうした考え方が一般化したと思われる。しかし、飲酒や毒物によることもあり、その原因は一律ではない。

肝炎ウイルスでもA型肝炎ウイルスは飲料水や食品を介して経口感染する。そして、今話題となっているのがE型肝炎ウイルスだ。8月に兵庫県で野生の鹿肉を生食した4人がE型肝炎ウイルス食中毒と診断されたからだ。英国の医学誌「ランセット」に掲載されたこの報告は、原因食品が特定された最初の報告になった。

その後、9月に市販の豚レバーの一部からE型肝炎ウイルスの遺伝子が検出される報告があって、加熱が不十分な豚レバーから人に感染することが心配されている。

このように、A・E型肝炎ウイルスは経口で、B・C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染する。D型肝炎ウイルスは特殊なウイルスで、B型肝炎とともに存在して、肝炎を重症化させる。このほかにも肝炎を引き起こすG型・TT型ウイルスがいることが知られていて、さらに研究が進められている。

E型肝炎ウイルスは1955年にインドのニューデリーで29,000人、中国の新彊(しんきょう)で86~88年にかけて120,000人の大流行があった。

E型肝炎を発症すると、けん怠感、食欲不振、そして黄疸(おうだん)を伴うといったA型肝炎に類似した症状が出るが、劇症化することはまれだ。しかし、3月に野生のイノシシの肝臓を生食したと思われる1人は、劇症肝炎で死亡している。特に心配されるのは妊婦第3期(妊娠28週以降)で、致死率が20%に達するという報告がある。

治療法は、対症療法と栄養管理が中心となる。肝細胞を保護する強力ミノファーゲンの注射などもあるが、薬物療法はあくまでも脇役的存在だ。横になっているだけで肝臓に流れる血液量は1.5倍になるので、寝て、肝細胞の再生を待つのが最良の治療になる。

日本では散発的に発生しているが、衛生環境が悪い発展途上国では多くの発生事例が報告されている。そうした国に旅行などをするときは、飲料水などに気を配ってほしい。そして、食肉は火を完全に通して食べることで予防可能だ。