『第614話』 【痔主の苦しみ】ほどよい便の硬さに

作家の浅田次郎氏は痔主(じぬし)で、そのつらさは痔主でなければわからないとある雑誌で告白していた。疣痔(いぼじ)は身体の内奥に抱え込むような鈍く重い痛みであり、切れ痔の場合は出血すら伴う直線的な痛み。前者はボディーブロー、後者は顔面アッパーカットだという表現に、苦難の日々を感じる。また、外国はトイレット・ペーパー事情が悪いから、ソフトな日本製を持ち歩くなど痔主の苦労は絶えない。

痔の薬物治療は、便の軟らかさを調整し、細菌感染を防ぎ炎症を治めるといったことが中心になる。ひどい脱肛(だっこう)があったり、痔瘻(じろう)までいってしまえば、手術か必要だ。

便は、硬くても軟らかすぎてもいけない。ほどよい便をつくることが重要だ。言葉で表現するのは簡単だが難しい。薬局で「そんなことを言っても」と怒りを爆発させる人もいる。漢方薬の乙字湯(おつじとう)や塩類下剤あるいはセンナなどの刺激性下剤を含む薬で調整する。

炎症を治めるために、ステロイド剤を含有する坐薬(ざやく)を使う必要も出てくる。坐薬といってもこれは剤形で、中に含まれる成分はいろいろある。鎮痛のために麻酔作用を持つリドカイン、止血を目的に没食子酸ビスマス、エスクシド、カルバゾクロム、ステロイドの代わりに抗ヒスタミン薬を入れて炎症を抑えるといった具合だ。このほか、抗生物質や大腸菌の死菌浮遊液を配合して感染防止と肉芽形成保護を目的としたものなどさまざまだ。

坐薬をうまく使えない人がいる。内痔核であれば、肛門に少し差し込んだぐらいではだめだ。肛門から最低2~3センチ以上、小指の第2関節までしっかりと中に入れる。また、朝に排便があるのなら夜に挿入するなど、使う時間が重要になる。

皮膚でできていて痛みを感じる肛門と、粘膜でできていて痛みがない直腸。これを歯状線が分けている。肛門にできる外痔核、直腸にできる内痔核、肛門が切れる切れ痔。そして、肛門周囲膿瘍(のうよう)から痔瘻へ進むなどさまざまな病態があるので、1度は専門医に受診することを勧める。

肛門は、便やガス漏れを防ぐ大事なパッキング。力むとどうしても充血してパッキングが壊れる。浅田氏がシャワー式トイレは今世紀最大の大発明と称賛していたが、これも上手に使って肛門をいたわってもらいたい。