『第607話』 【結核感染症】油断禁物、確実な情報を
昨年の10月のことだったが、友人がのどから出血するので、耳鼻咽喉科に受診した話を聞いた。その時には、のどの奥が切れているという診断結果だったそうだ。「まだ、ちょっと出血するみたいだ」と言うので、「労咳(ろうがい)じゃないか」などと冗談めかした。その後、忘年会でも「微熱はないから大丈夫」などと同様の話をするので、「おい、ちゃんと診てもらえ」と友人の内科医を紹介した。
レントゲン像には、明らかな結核病巣が写し出されていた。しかし、喀痰(かくたん)検査は陰性。内科医は、感染症病棟のある病院を紹介した。すぐに入院し、肺に気管支鏡を入れて病巣から採取した分泌液を培養した結果、結核菌が検出された。
活動期の開放性結核であれば、常に体外に結核菌が排菌されるので、診断しやすい。しかし、ほとんど症状がなく、喀痰検査だけでは診断できない場合がある。もともと、結核は不顕性感染といって、結核には感染するものの体力が勝って、治ってしまうことがある。この時に免疫ができて、ツベルクリン反応が陰性から陽性に転じる。
「結核菌は、国民病と言われてきた」と、過去の話のような言われ方をする。しかし、毎年35,000~45,000人が新規結核患者として登録され、この半数以上が60歳以上の高齢者だ。また、毎年約2,500人程度が死亡しており、新型肺炎(SARS)どころの話ではないのが現状だ。結核は決して撲滅された感染症ではない。
しかし一方で、乳幼児から学童期の結核は減少している。これまで一律に実施してきたツベルクリン検査は今年から廃止され、保護者が問診表に記入して、必要があると学校医が判断した児童に対し、ツベルクリン検査やX線検査を実施することになった。また、小中学生へのBCGワクチンの定期摂種も廃止された。
BCGワクチン接種は原則として4歳までの1回となった。乳幼児が結核になると進行が速く重症化しやすい。このため、BCGワクチンの接種は生後3カ月から6カ月、遅くとも1歳までに行うことが望ましい。4歳以上になると予防効果が確実に得られるのか、証明されていないためだ。
感染症対策は疫学調査などによって変わる。結核は、確実に情報提供を行って対策を図る必要があり、決して油断できない感染症であることは間違いない。