『第605話』 【薬は信じれば効く】名前1つで効果倍増も

薬は信じて飲むと効く。もちろん症状と成分が合致していれば効くのは当然だが、このとき使った薬のネーミング1つで効果が倍増することもある。それほど心理効果は重要だ。

昔の家庭薬の多くはデザインや名前に工夫を凝らし、実にインパクトを与えるものが多かった。特に奈良県橿原市や富山県、滋賀県などには伝統薬が多く、看板を見たり、昔風なパッケージを見るのも楽しい。明治以降、新しい西洋薬の導入や製造物責任法(PL法)の制定により消えていったものも多いが、今もって人気の高いものもある。

私が橿原市今井町で買い求めた風邪薬には「みみづ入り」と書いてあった。みみづは魚釣りの時に使うあのミミズのこと。地竜(じりゅう)と呼ばれ、漢方の材料になる。

ミミズには目がなく、光を感知する細胞があって光を感じると暗がりを求めてはっていく。雨が降ったときだけ酸素を求めて地中からはい出してくるが、光には弱くいつもは土の中にいる。しかし昔から雲を起こして陰晴を知る能力があるといわれ、この名があるという。

その薬効は解熱作用と気管支拡張作用だ。まさに風邪の症状にはぴったりだが、まずミミズをたくさん集めてきて手で洗う。この作業は想像するだけでもすごいことだが、においも相当なものだという。これを乾燥させて粉末にしてから他の生薬と混合する。

インドでは、ミミズをパンに挟んで食べると聞いたことがあるが、読者にここまでの勇気があるだろうか。

以前紹介したことのある陀羅尼助(だらにすけ)というユニークな名前の薬は腹痛のときなどに使う和漢薬だが、数社で製造している。中でも外箱に三足蛙(さんそくがえる)がついた印象的な包装の薬がある。三足蛙は前脚が2本、後ろ足が1本のカエルで、昔、薬の神様である神農が乗り移ったという言い伝えがある。

ガマの油やぜんそくの薬の外箱にはガマガエルの絵が多く登場する。ガマガエルは正式名がヒキガエルだが、体の乾燥予防や外敵から身を守るため耳の後ろから特殊な毒液「蟾酥(せんそ)」を分泌する。カエルもやはり古来より霊力を持つと信じられてきたゆえんだろう。

ただし、ガマの油は切り傷や皮膚炎、ただれ、かぶれなどに使用するもので、おなじみの「ガマの油売り」が演じているような、刀の傷から流れる血が止まるようなことはない。