『第598話』 【新興感染症SARSとの闘い】手洗い、マスクで予防を
昨年11月16日から、中国広東省で原因不明の重症肺炎が集団発生していた。年明けに感染者が急増したが、中国がこの状況を公表したのは2月11日のことだ。2月下旬以降、香港、ベトナム、シンガポール、アメリカヘとその感染地域が広がり始めた。国情もあり、中国国民はこの事実をほとんど知らされていなかった。
原因菌は、新型コロナウイルスだ。動物にあったウイルスが感染したか、突然変異によって人に感染したか、まだ明らかではない。
4月3日、厚生労働省は感染症法の新興感染症に指定した。症例定義として、38度以上の急激な熱とせき、息切れ、呼吸困難などの呼吸器症状があって、発症10日前に感染地域に旅行した者、あるいは近距離でこの者に接触または体液などに触れた者を「疑い例」としている。疑い例であって、胸部レントゲン写真で肺炎や呼吸窮迫症候群の臨床症状があるか、または原因不明の呼吸器疾患で死亡し、剖検で呼吸窮迫症候群の病理所見があった者を「可能性例」として、患者の管理指針を定めている。
感染は接触、飛まつ感染と考えられることから、予防対策としてはうがい、手洗い、マスクの着用となる。マスクは0.3ミクロンの粒子を95%以上除去できる
5規格(米国労働安全衛生研究所)、またはDS2(日本の国家検定規格)を使用するが、完全には防御できない。
SARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)と名付けられた疾病の第1号患者は、2月26日、ハノイ(ベトナム)の病院に入院した。初期症状は高熱、たんを伴わないせき、筋肉痛であったが、入院4日後には重症の呼吸困難に陥り、白血球と血小板の減少がみられた。
この患者の異常な病態を察知したのはカンボジアなどの公衆衛生計画に携わっていたWHO(世界保健機関)の専門官、カルロ・ウルバーニ博士だった。この早期検知によって、全世界的なサーベランス(監視)が強化され、感染範囲の抑制につながる。しかし、野口英世をほうふつとさせる状況が起こる。「国境無き医師団イタリア」の総裁でもあった博士は、SARSに感染し46歳の若さで亡くなった。
潜伏期間は10日と考えられている。抗ウイルス剤のオセルタナビル、リバビリン、抗炎症剤のステロイドを用いているが、治療法は未確定。現在、確実な診断・治療・予防方法の確立を急いでいる。