『第596話』 【睡眠薬】脳の興奮抑え不安除去
春は眠りに誘われる季節といわれる。しかし、眠れない人にとっては一向に開係ないと怒られる。
薬でどうしても眠れないのでお酒を飲んだらよく眠れたという人がいるが、薬が効き始める時間帯にアルコールを追加するので効くはずだ。だが、アルコールは睡眠剤の効果を増強し、朝になっても効果が残って眠かったり、記憶障害をもたらしたりする。
神経質な人は不安や心配事があるたびに眠れない。せっかく薬を渡しても今度は副作用が気になり、使えないという。また、一度使ったら切り離せなくなるのではないか、量が増えていくのではないか、などと気になり始め、使っても眠れない人もいる。
だれしも何かが気になり、不安になることがある。もちろん解決できればそれにこしたことはないが、大半の人が感じる不安は長続きすることなく、それに耐えて普段の生活ができるものだ。
しかし、病的な不安になると原因がはっきりせず、胸騒ぎなどがして毎日が苦しくなる。苦しくて動悸(どうき)がしたり、汗が出たり、震えたり、眠れなかったりといった症状が現われる。
こうした不安症状を取り除くには、脳の異常な興奮を抑えることが有効だ。脳の興奮を抑えると結果的に眠気が起こるので、処方される睡眠薬の多くは抗不安薬や精神安定剤という種類の薬だ。
テレビや映画に出てくるように、自殺に使われたり、薬物依存を起こして二度とやめられなくなったりといったようなものは、現在は睡眠剤として使われていない。
抗不安薬の中でも主流はベンゾジアゼピン系だ。他の抗不安薬に比べて安全性が高く、効果が超短時間型から長時間型の薬を症状によって使い分ける。
ベンゾジアゼピンの受容体は脳内にだけある。この受容体にベンゾジアゼピンが結合すると、脳の神経細胞の興奮が抑えられて不安が取り除かれ、眠気が生じる。
ベンゾジアゼピン系の薬は筋肉を緩める作用もある。肩凝りの人には有効だが、夜間頻繁にトイレに行く高齢者は、立ち上がる時に起こるふらつきに注意する。また短時間型の睡眠薬では夜中に目覚めた時の行動を覚えていないなど、記憶障害を生じることがある。
睡眠薬をやめるには量を減らしていく方法と使用間隔をあけていく方法がある。睡眠薬が不安で眠れないとなったら大変だ。主治医やかかりつけの薬剤師に相談し、必要な時は恐れずに服用して、休養を十分に取ってもらいたい。