『第594話』 【高血圧に使う漢方薬】症状によって選択可能
漢方薬に過大な効果を抱く人がいる半面、良くも悪くもならないので飲む気が起こらないという人もいる。
漢方薬の中には即効性がないものや、作用がはっきり現れてこないものがあり、そこが期待にこたえていないと思われる一面でもある。
特に感染症や高い血圧をすぐに下げる必要があるときなどは、明らかに即効性がある西洋薬の方が適している。
血圧が高いお年寄りに降圧剤を投与すると血圧は下がるが、これに付随したすべての症状が片づくというわけではない。
漢方薬の血圧を下げる力は西洋薬に比べると弱いが、動悸(どうき)や肩凝り、便秘がち、気落ちしやすい、耳鳴り、朝に頭痛がある、などの症状によって薬が選択できるところが利点だ。
例えば、高血圧の中でも柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は交感神経の緊張が強いため、動悸や肩凝り、便秘を伴う人、ストレスも強く心身症傾向がある人に向く。
本来は慢性頭痛に処方される釣藤散(ちょうとうさん)は、高齢者で下の血圧が高い人に応用される。胃腸が弱く、朝頭痛を伴いやすく、耳鳴りや手足の震えがある、ちょっとしたことで気落ちするといった人に向いている。また、老人のぼけ症状改善にも効果があるのではないかと期待されている。
もう一つ高齢者に向くのが八味地黄丸(はちみじおうがん)。老化に伴う動脈硬化や泌尿器系の症状がある高血圧症の人に使用するが、胃腸が弱い場合は使えない。胃腸に異常がなくても胃腸障害が心配な場合は、お酒を水で薄めて、それを水代わりにして服用する。原典の「金匱要略(きんきようりゃく)」には、服用は酒でという指示がある。
本来は八種の生薬に、胃腸を守るはちみつと酒を加えた十味だった。もちろん八味地黄丸と日本酒や梅酒を併用してもいい。かつて、丸剤ははちみつで練って便秘を防いでいたので、はちみつで作った梅酒が最適。ただし飲み過ぎに注意。
今は血圧が高くなくても、今後血圧が高くなりそうな背景を探り、薬を処方するのも漢方医学の特徴だ。首筋が張ったり、肩凝りが始終続く、いつもより足がむくむなどの症状を体が訴え始めたら一度受診した方が良い。