『第593話』 【高齢者の肺炎】周囲の人の観察が大切
著名人のお悔やみ欄で、肺炎という死亡原因を時々目にする。高齢者にとって、肺炎は最も注意しておかなければならない疾患だ。
死亡原因を上位から順に並べると、悪性新生物(がん)、虚血性心疾患、脳卒中となる。これを三大生活習慣病と呼んでいる。第4位にくるのが肺炎で、近年上昇傾向にある。
鼻腔(びくう)や咽喉(いんこう)の付近で起こる炎症を上気道炎といい、一般に風邪という。肺炎は、肺の気管支から肺胞にまで至る炎症で、気管支炎や肺炎は下気道炎になる。
高齢者の肺炎では、高熱やせきなどの症状がはっきりと出てこないことがある。元気がない、食事が進まないといった状態から、急に脱水症状や意識混濁へ向かう。家族が元気がないようだと感じたら、まず熱を計る、そして、舌が乾いていないか観察して、脱水状態を確認する。
せきは、気管に入った異物を排出させる生理反応だが、場合によってはせき止めが逆に悪いこともある。
高齢になると嚥下(えんげ)反射が低下する。このために、誤って食べ物が気道に入って、炎症を起こす。65歳以上になると無症候性の脳梗塞(こうそく)を起こしていることがあり、嚥下反射などさまざまな生理的反射機能が低下していることもある。誤嚥を起こさないためには、上体を60度以上に保って食事を取ることも重要だ。
そして、口腔(こうくう)の衛生管理も重要だ。もともとだ液には殺菌作用があるが、加齢とともに免疫力が低下してくると、だ液の殺菌力が低下する。雑菌が混じっただ液が絶えず気道に入ると炎症を起こすので、口腔内を常に清潔に保っておく必要がある。
食道から胃に入る部分を噴門部といって、食べ物が食道の方に逆流しないように筋肉で閉めている。この部分の筋肉が低下してくると、寝ている間に食道から気管に胃液や雑菌が入り、気管を刺激して炎症を起こす。
肺炎の診断が下れば、すぐに入院し、点滴と多剤高濃度の抗菌剤治療が始まる。しかし、耐性菌の問題もあり、最終的には体力の勝負となる。
人類は、さまざまな疾病を克服してきたが、肺炎は、人の生理的機能の低下を根本的原因としていることから、最終的死亡原因となる可能性もある。周囲の人が観察力を研ぎ澄まし、高齢者を見守ってもらいたい。