『第588話』 【サリドマイド】各種効果、見直される

サリドマイドという医薬品名を挙げると、けげんな顔をされる。薬害問題の原点にもなったと言われるこの医薬品が、再び日本で医薬品として認可されるかもしれない。

サリドマイドは1957年10月、西ドイツ(当時)で睡眠薬、精神安定剤として発売された。大量に使用しても死に至らないなど安全性が高く、処方せんを必要としない大衆薬としても使われた。その後、アスピリンやフェナセチンと合剤にし、解熱鎮痛剤としても広く使われた。親が映画館に出掛けるとき、子供を寝つかせるために飲ませることから、シネマジュースと言われるほどだった。

1961年6月、ハンブルク大学小児科及び人類遺伝学の講師だったビドュキンド・レンツが四肢の奇形を診断するところから、サリドマイド薬害の話が始まる。

西ドイツでは1961年11月に回収が決定されたが、日本では1962年9月までかかった。医療機関から最終的に回収されたのは1963年末で、この間に多くの薬害患者を生んだ。裁判で和解が成立するまで12年もかかっている。

1965年、イスラエルの皮膚科医師がイギリスの医学雑誌を参考に、ハンセン病患者の皮膚掻痒(そうよう)感の鎮静のためにサリドマイドを使用したところ、劇的な効果があったと報告する。これが契機になり、ハンセン病に対する鎮痛剤として使用されるようになり、さらに潰瘍(かいよう)を伴うベーチェット病、難治性エリテマトーデスなどの疾病に対する特効薬として、皮膚科領域における有効性が実証されていった。

その後の研究で、サリドマイドによる薬理効果は、血管の新生を阻害するためであることが分かってきた。四肢の奇形が起こってきたことや、さまざまな炎症を止める効果もこの薬理作用による。

さらに1999年、米国アーカンソー大学のグループが難治性の多発性骨髄腫(血液ガンの一種)に効果があることを報告する。日本では、サリドマイドの製造販売が認められていないため、類を見ない効果が得られても、医師が個人的に輸入し患者に無償提供する状態が続いている。

また、こうした無承認医薬品の使用実態も明らかではなく、厚生労働省がやっと本格的な調査を開始したばかりだ。

現代の医学と医薬品承認のシステムが感情論ではなく、適正な臨床試験によってサリドマイドを医薬品として承認するのか注目したい。