『第585話』 【羊の字がつく生薬】強壮剤のイカリソウも

どことなく温かいイメージのある未(ひつじ)年を迎えた。羊の学名はOvisというラテン語の「守る」「保護する」を意味し、その性質を大切にしてきた人の心をうかがわせる。

年の初めに、干支(えと)にちなんで、羊の字がつく生薬を集めてみた。

羊蹄根(ようていこん)はタデ科のギシギシの根を乾燥したもの。道端にも自生していて、ウマスイバとも呼ばれる。アントラキノン類を含み、大黄やセンナと同様に緩下(かんげ)剤として利用する。昔は、生の根を砕いて、その絞り汁を水虫やタムシの患部に塗った。

キョウチクトウ科のストロファンタスは、その種子が羊の角の形をしているため、中国では羊角拗(ヨウカクオウ)という。猛毒のG-ストロファンチンを含み、その樹液を毒矢に塗った。強心薬、不整脈の注射剤として使われていたが、経口では効果がないため今は使わない。

古来からイカリソウは強壮剤の代表だ。生薬名を淫羊▲(いんようかく)という。名前の由来は、雄の羊がイカリ草を食べると1日に100回交尾するという言い伝えによる。ただし、イカリソウの名は、その花がいかりの形に似ているためなので念のため。仙霊脾(せんれいひ)、方杖草(ほうじょうそう)とも呼ばれ、イカリイン、エピメジンなどのフラボノール配糖体やマグノフロリンなどのアルカロイドを含んでいる。

エピメジンは性ホルモンの分泌促進作用があり、神経を刺激する。服用しすぎると、おう吐、鼻血、口渇が起こるので注意が必要だ。

イカリソウエキスは、他の生薬と配合して、インポテンツや遺精、足腰のしびれ、関節痛や筋肉痛に使う。有名な薬用酒や市販のドリンク剤などに、滋養強壮の目的で幅広く配合されている。

淫羊▲に比べてやや作用が緩やかな羊角藤(ようかくとう)も滋養強壮に使う。これは、ハナガサノキの根を乾燥したものだ。中国ではアカネ科のつる常緑木・ハゲキテンの根を乾燥した生薬・巴戟天(はげきてん)と同様に用いる。人参、当帰(トウキ)、鹿茸(ロクジョウ)などと配合して、腰痛、肩凝り、疲労回復に使う大衆薬(OTC薬)がある。

角といえば、犀角(サイカク)、鹿茸、羚羊角(レイヨウカク)などがあるが、今年はぜひ角だけは引っ込め、羊のように心穏やかに過ごしたいものだ。

▲は「くさかんむり」に「霍」。