『第582話』 【便中の錠剤】成分出ても形保つ薬も
錠剤は必ず溶けるというのが常識だ。従って、便の中に錠剤が混じっていたら驚く。患者さんからの訴えがあった薬局から、そんな相談が持ち込まれた。
薬には先発品と後発品がある。後発品もさまぎまなメーカーがあって、1成分で30銘柄を超えるものもある。薬の値段もさまざまで、後発品はうまく使うことを多様な視点から検討している。特に、品質に関してはしっかりと把握しておく必要がある。
薬局では、コップに水を入れ、先発品と患者さんからの訴えがあった後発品を同時に溶かしてみた。すると、後発品のみが残った。
試験検査で確かめるには、2つの方法がある。1つは、錠剤が規定の時間内に崩壊するかを調べる崩壊試験。もう1つが溶出試験で、錠剤から規格時間内に有効成分が溶け出ているかを調べる。
当会の試験検査センターで崩壊試験をしたところ、薬局で行った実験と同様に、120分を経過した後でもその錠剤の形を保っていた。この薬の説明書には、ゴーストタブレットが便中に排せつされることがあると記載されていた。また、徐放性の製剤で、崩壊試験が適用できないことも判明した。
そこで、溶出試験を実施することにしたが、試験法と規格が手元にない。これを知るには医薬品製造承認書が必要だ。しかし、メーカーは特許情報を含む医薬品製造承認書を出したがらない。案の定、出す出さないという数日間のやり取りの後、製造メーカーから溶出試験法とその規格を入手した。
溶出試験の結果、規格通りに溶出率を示したが、その形は保ったまま。成分は溶け出て、試験前より明らかに軽くなり、残った錠剤は発泡スチロールで作ったような感じでやや固い。この状態だと、おそらく崩壊することはなく、容易に便中に混入すると考えられた。この結果を得るまでに約1カ月も要した。
結果的には、問題はないということになったが、患者さんにしてみれば不安の残るところだ。薬の効果が異なることはないが、このように医薬品を使用していて不安があれば、遠慮せずに薬剤師に申し出てもらいたい。