『第580話』 【膀胱炎の薬】処方分をしっかり服用
風邪の季節を迎え、抗菌剤がしばしば処方せんに登場するようになった。
処方せんには疾患名が書かれていないので、うがい薬やせき止めなどが一緒であれば風邪かな、下痢止めや鎮痙(ちんけい)剤などが一緒だと感染症の腸炎だな、と推察して話を始める。
しかし、抗菌剤のみ、あるいはいつもの薬の中に突然抗菌剤が登場すると、推測すべき疾患の範囲を広げなければならなくなる。しかし、それとなく、疾病の状況を聞いても何も返事がないことがある。
質間の方法を変え、おしっこが濁ったりしていませんかと尋ねる。「そうなんです」という答えを得て、初めて薬の説明や生活上のアドバイスができるようになる。
女性の場合、恥ずかしさもあって話しにくく、また膀胱(ぼうこう)炎が多いのも女性だ。一般に膀胱炎といわれるのは腸内にいる大腸菌が原因の単純性膀胱炎だ。大腸菌は肛(こう)門部にたくさんいて、その中でも病原性の強いものが膣(ちつ)や外尿道付近に移り、そこから尿道に入り、膀胱粘膜に付着して炎症が起きる。しかし、だれもが炎症を起こすわけではなく、疲れていたり、長時間排尿を我慢したりすることがきっかけになる。
膀胱炎の特徴は頻繁にトイレに行くことだ。30分から1時間ごとに行く人もいる。これは膀胱の内腔(ないくう)粘膜に炎症が起きることで粘膜がむくみ、これが膀胱の知覚神経を刺激し、知覚過敏となって尿意をもよおす。また、炎症を起こしているため、細菌と戦った白血球が尿の中に出てきて尿が白っぽく濁る。この症状だけの人もいるが、微熱が出たり、排尿するときに尿道部に強い痛みを感じたりする人もいる。
適切な抗菌剤なら1週間程度で治る。また水分を多めにとって尿量を増やし、尿で膀胱内の細菌を洗い流すようにする。下腹部を温め血行をよくすることも治癒を早める。
たまに、尿がきれいになったらすぐ服用をやめ、再発したときのために薬をとっておくと話す人がいる。治りやすいが再発もしやすいことの表れだと思うが、処方された日数分は必ず飲み、膀胱炎が完全に治っているか検査してほしい。不十分な抗菌剤の使い方で細菌が容易に耐性を得て、さらに強い菌になって治りにくくなるからだ。
症状が消えても薬をきちんと飲み、再度尿検査を受けることをお願いしている。