『第566話』 【ビール酵母】夏バテに効く「医薬品」

夏休みも終わり、そろそろ夏バテを迎えている人もいるのではなかろうか。

疲労回復に効果があるのはビタミンB群だ。このビタミンB群を多く含み、さらに疲労回復に必要な必須アミノ酸、腸の調子を整えるグルカンやマンナンといった食物繊維を含み、さらに良質なたんぱく質が乳酸菌などの働きを助けるといった効果を持つ薬がある。ミネラル分はカリウムが豊富で、換言すれば、サプリメントの元祖ともいえそうだ。

日本薬局方にも収載されているその薬は、ビールを造った後に残るビール酵母を乾燥し、これを錠剤にしたものだ。昭和5年の発売当時は、ビタミンB1欠乏症の脚気(かっけ)の特効薬として使われた。

酵母といってもさまざま。約60属、450種類に分類できる。ビールにはサッカロミセス属の酵母を使う。

ビールを造るとき、酵母は直接澱粉(でんぷん)をアルコールに変えることができないので、まず最初に大麦を発芽させて麦芽(モルト)を作る。麦芽はアミラーゼを含み、澱粉を分解して糖に変えてくれる。麦芽を粉にしたものをコーンスターチなどの副原料とともにゆっくりと煮る。この糖化の工程を経て、麦芽糖、アミノ酸などを含む栄養価の高い麦汁(ばくじゅう)を作る。麦汁に、ビール酵母を入れてアルコール発酵させる。

発酵は英語でフラメンテーション。ラテン語のフェルベーレ(湧く)が語源。アルコール発酵するときに炭酸ガスの泡が湧(わ)いてくる様子からついたと考えられる。

アルコール発酵は酵母に含まれる「チマーゼ」という酵素が働いた結果だ。酵素は英語でエンザイムというが、これは「酵母の中」という意味だ。チマーゼは、1897年ドイツの科学者エデュアルド・ブフナーが、死滅したはずの酵母がアルコール発酵現象を示していることから見いだした。後に、チマーゼは、10種類ほどの酵素による複合酵素であることが分かった。

酵母はこうして栄養を十分に吸収し、そしてビタミンやたんぱく質を作りながら発酵を続ける。乾燥酵母1グラムは1リットルのビールを造るのに必要な大麦が持っていた栄養を含む。ビールには悪いが、ビールの方が残りかすといえそうだ。しかし、ビールは最後の暑さを乗り切るために、精神的ストレスを解放するのに役立っているのかもしれない。