『第559話』 【ニトログリセリン】錠剤は舌下で使う
ノーベル賞といえば、ダイナマイトの開発者アルフレッド・ノーベルが、平和思想の普及と科学の進歩のために創設した賞として有名だ。
ダイナマイトの原料に使うニトログリセリンは、1847年にイタリアのアスカーニオ・ソブレーロによって開発された。非常に不安定でちょっとしたショックで爆発する。そこでノーベルは1864年、安全に爆発させるために黒色火薬を使った雷管を開発して特許を得た。そして1866年、ニトログリセリンを珪藻土(けいそうど)に染み込ませたダイナマイトを開発した。
これによって、鉱山関係だけでなく軍需産業でばく大な利益を上げた。死の商人といわれた償いとして、ストックホルム科学アカデミーに全財産3,300万クローネを寄贈し、文学・平和・物理・化学・生理医学賞の創設を指示した。
医療の現場においてもニ卜ログリセリンは狭心症の治療薬として必要不可欠な薬だ。ノーベル自身も心臓病を患っていて、これを使っていた。
ニトログリセリン錠は飲むのではなく、舌の下に入れる舌下錠(ぜっかじょう)として使う。ソブレーロはニトログリセリンを開発したときにこれをなめている。甘味があったがやがて激しい頭痛が襲ってきた。これは、脳血管が拡張したためで、片頭痛と同じメカニズムだ。
1853年、この血管拡張作用に着目したのが米国ハーネマン医科大学のコンスタンチン・ヘリング教授で、狭心症治療薬としての可能性を指摘し、舌下投与を考案した。
その後、ニトログリセリンが「効く」、いや「効かない」という論争があった。ニトログリセリンは粘膜から吸収させると効くが、飲むと肝臓で分解されて効かない。効くと主張した学者はニトログリセンを「なめていた」。しかし、効かないと主張した学者は「飲んでいた」。
1879年、イギリス人医師ウイリアム・ミューレルは、これを証明する実験結果を科学文献雑誌「ランセット」に掲載し、26年にわたる論争が決着した。
ニトログリセリン錠は、間違って飲んでもほとんど害も効果もない。飲み込んでしまったらもう1錠追加して舌下に確実にいれて使う必要がある。また、揮発しやすい性質があるので、保存にも注意が必要だ。