『第557話』 【薬用炭】中毒用に常備する病院も
日本には、茶道、香道など、炭がなくては成り立たない伝統文化がある。人が火を使い始めたのは45万年前の旧石器時代といわれている。この時代に炭が使われていたかどうか、定かではない。日本では、30万年前の愛媛県肱川町にある「鹿ノ川洞窟(どうくつ)」で少量の木炭が発見され、これが日本最古の木炭といわれている。
炭には、白炭と黒炭がある。
白炭は炭化する温度が1,000度以上。炭焼き窯から真っ赤に焼けた炭を出して消粉(けしこ)という湿気を含んだ灰と土をかけて消す。この消粉がついて白く見えるので、白炭といわれる。非常に堅く、鋼鉄の硬度20に対し15もある。たたくとキンキンと音がするほどで、のこぎりでは切れない。不純物が少なく火持ちが良い。パチパチと火花を飛ばすことがなく、通常500度の安定した火力を得られるが、あおぐと1,000度まで温度を上げることができる。
また、赤外線を出し、火の通りが良いので焼き物がこんがりと仕上がり、江戸時代にはウナギを焼くのに重宝された。
黒炭は400~700度ほどで炭化し、消壷(けしつぼ)の要領で炭焼き窯の開口部をふさいで火を消して冷やす。世界で生産される炭はほとんどこの製法で作られる。
白炭の代表は、姥目樫(うばめがし)や粗樫(あらかし)を原料にした備長炭だ。804年に弘法大師が中国から白炭技術を伝え、炭問屋・備中屋長左衛門お抱えの無名の炭焼き職人がその技術を改良し、備長炭を完成させた。
炭が室内の空気や水質を浄化することはよく知られている。水差しに炭を入れておくと水道水の塩素を吸着して、カルキ臭が消える。多孔質の炭、いわゆる活性炭は、おなかの中の毒素や消化管で発酵したガスを吸着してくれる。
こうしたことから、第5改正日本薬局方(昭和7年)から薬用炭として収載されている。大衆薬(OTC薬)としても薬用炭を成分として含む胃腸薬がある。しかし、常用すると必要なビタミンまで吸着してしまう。自家中毒や薬物中毒の場合は5グラム以上を用いる。しかし、状況によっては50グラム以上を使う場合もある。
今ではあまり使うことはないが、中毒などの緊急時のために、常備している病院もある。