『第554話』 【薬と剤の違い】「剤」は「薬になった形態」

「鎮痛薬と鎮痛剤には違いがあるのですか」という問い合わせをいただいた。日ごろ薬を使う上で問題になる疑問ではないが、専門家も答えに窮する質問だ。要点は「薬」と「剤」の定義について、違いがどこにあるかということになる。医療関係者も日常、明確に使い分けることはほとんどない。

答えは、薬理的な効果を説明するときなどに、その効果を示す成分そのものを表す場合は「薬」を使う。一方、「剤」は、薬となった形態を指すときに使う。実際に医療の現場で使う薬は散剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、液剤などの製剤になっている。これらのように薬として服用する形態になった場合は「剤」を使う。

例えば、アスピリンという成分を示して使う場合は解熱鎮痛薬、錠剤や散剤になっている場合は解熱鎮痛剤といった具合だ。明確に定義されているわけではないが、この方針で使い分けをしている。

薬には有効成分の他にさまざまなものが含まれている。

薬の成分を見ると、ミリグラム単位で使う薬が多い。100ミリグラムは耳かき1杯の量だ。この量を正確に服用することはできない。そこで、薬の量を増やすために乳糖やでんぷんなどの薬効を持たない成分を混合して、薬の量を増やしている。ただし、乳糖もでんぷんも日本薬局方に収載されているので、立派な医薬品だ。

通常散剤では1回の服用量が0.3~1グラムになるようにしている。こうして加える乳糖などのことを賦形(ふけい)剤という。錠剤にも同様に賦形剤が加えられ、飲みやすいように1錠の大きさを決めている。

このほか錠剤を作るときには、錠剤の元になる粉を錠剤の形に成形した杵(きね)で圧縮して錠剤を作る。このときに杵に付きにくいように滑沢(かったく)剤を加えてはがれやすくしている。また錠剤が胃の中で壊れやすくするために崩壊剤を加えている。

「薬」と「剤」の使い分けも漢方薬となると話は違う。漢方薬に含まれるそれぞれ単味の草木などを生薬という。これらを組み合わせて漢方薬とするが、漢方剤とはいわない。昔はキザミといって生薬そのものを1日分煎(せん)じて服用したが、現在は、漢方薬も成分を抽出して顆粒(かりゅう)状に製したものがほとんどだ。この場合は漢方製剤という。

まずは「剤」を付けて呼んでいただければOKだ。