『第552話』 【季節と味覚変化】降圧剤服用時に注意を
血圧を下げる薬を飲んでいる人の中には、暑くなるにつれて起立性低血圧を起こしやすくなる人がいる。特に高齢者、女性、肥満者などに生じやすいことが経験的に知られている。
気温が高くなると多く汗をかくので体内の食塩量が減る。また、さっぱりしたものが食べたくなる傾向が出てきて、食事からの塩分摂取が少なくなる。
夏は塩味に対する鋭敏度が最も高くなるという報告があり、これがさっぱりした食事を望む原因と考えられる。味覚が敏感になるということは、薄味でも十分おいしい食事をとることができるということを示している。そして、食塩摂取量が落ちることで血圧が上がりにくくなる。暑くなって新陳代謝が高まり、血圧が高くなる傾向にある季節に理にかなった身体のシステムだ。
血圧は高いが薬を飲むほどではない人にとっては都合のいい話だが、降圧剤で血圧を下げている人にとっては問題になることがある。減塩によって降圧剤がより効くようになるからだ。そのため普段通りの薬の量でも立ち上がる際にふらつきを感じたりすることが起きてくる。このような自覚症状が出てきたら主治医に相談してもらいたい。利尿系の降圧剤も塩分が体内から失われやすくなる。
日ごろから薬の効果を確認するために、家庭用血圧計の利用をお勧めしたい。
家庭で血圧を計るときは食前及び服用前に安静座位の状態で行う。その記録は、主治医と相談して薬の量の調節をしてもらうときに役立てるとよい。世界保健機構(WHO)では140~90以上を高血圧としているが、これよりも低い血圧でも糖尿病などの合併により治療を必要とする人がいる。家庭で計る血圧は、病院などの外来で計る値よりも低めに出る傾向があるので、注意が必要だ。
肥満の人は体重を2、3キロ落としただけでも薬の降圧効果が上がる。暑さによる食欲減退は体重を落とすことにつながるが、体の疲労も同時に起こっている。食欲が落ちているときは量を食べることよりもビタミンとミネラルを豊富に含む食材を選び、あっさりとした味付けで取ることを心掛けたい。
梅雨の前には気温が上がる。夏に向かって予行訓練をしておきたいものだ。