『第551話』 【幻覚キノコ】来月から栽培を規制へ
東京渋谷駅近くに日本薬学会館がある。エフェドリンの発見で有名な長井長義の居宅跡に建てられた。この4階に日本薬剤師会の本部がある。会議も終わり、一杯やりに渋谷センター街に出かけた。ほろ酔い加減で店を出るとマジックマッシュルーム1袋1,000円の文字。大学生だろうか、袋を手にして若い販売員と言葉を交わしている。
若者でにぎわう繁華街を歩いて行くと、先ほどの1軒だけではない。あちらこちらに数軒が、ベニア板1枚の上にシメジを乾燥したようなマジックマッシュルームを広げていた。近くに交番もあるが、警官が飛んで来るわけでもない。なぜなら違法ではないからだ。しかし、この6月6日からは、栽培が規制され、輸入、輸出、広告、譲渡、譲り受け、所持、使用は麻薬及び向精神薬取締法違反となる。
マジックマッシュルームについては昨年4月にある俳優が興奮状態で「胸焼けがする、苦しい」と叫んでコンビニエンスストアに駆け込み、病院に搬送されて話題となった。
マジックマッシュルームの幻覚成分は、サイロシビンとサイロシンだが、シロシビン、プシロシビンなどの別名がある。脳内化学伝達物質のセロトニンと構造が似ていることから、神経が繋(つな)がったままになって、幻覚を引き起こすと考えられる。
すでに、この2成分は1990年に麻薬指定されていた。しかし、麻薬成分を含有する植物であっても、麻薬原料植物に指定しないと、麻薬として扱うことができない。そこでこのほど、初めて政令で麻薬原料植物に指定することになった。法律では、コカの木2品種、ケシ1品種が指定されている。
政令では、サイロシビンとサイロシンを含有するキノコ類という表現になる。主に、シロシベ・クベンシス、シロシベ・セミラソセアタ、コペランディア・シアネセンスがインターネット上で販売されていた。日本では、ヒカゲシビレタケ、笑茸など11種、世界では52種のキノコに、この2成分が含まれていることが確認されている。
今では、ほとんど使われることはなくなったが、冒頭のエフェドリンは覚せい剤原料だ。人の英知はこれを薬とし、多くの喘息(ぜんそく)患者を救ってきた。毒とするのも、薬とするのも人だ。