『第549話』 【植物などの有効成分】今に生きる先人の知恵
日ごろの癖からか、植物や食べ物をみていると、ついその中に含まれる有効成分のことに思いを走らせてしまう。
たとえば果物のパパイヤは消化を助けるパパインという酵素を含んでいる。パイナップルも同様にタンパク質分解酵素のブロメラインを含む。沖縄やハワイなどには、こうした食材を豚肉料理にうまく利用した料理がある。
パパインは化粧品の成分として、角質やむだ毛の処理剤として利用されている。
また、ブロメラインは消化を助けるだけでなく、医療用では炎症による腫れやウミ、浮腫等をよくとることから、外傷性炎症や痔核、慢性気管支炎等の治療薬として使用される。
ブドウの皮や種に含まれる渋味成分のプロアントシアニジンはポリフェノールの一種で、悪玉コレステロールの酸化を防いで動脈硬化を予防すると考えられている。フランスでは医薬品になっているが、日本ではサプリメントとしての扱いだ。
そろそろ鶯(うぐいす)の声も聞こえるころだ。鶯の糞(ふん)は昔から美顔料として人気がある。古くから着物に付いたシミを落とすのに使われてきた。しかし、そうした処方は古い書物に見当たらない。いつ、だれが思いついたのか分からないが、顔のしみ抜きに応用したと考えられる。
今では、鶯の近隣種の糞を乾燥して紫外線で消毒し、タルクを混ぜて作っている。これに含まれるタンパク脂肪分解酵素の働きを期待しているようだが、法律上は化粧品原料として認められていないので、残念ながら化粧品として扱うことはできない。
先人たちは食物に限らず、植物を噛(か)んだり食べたりして、試しながらその効果を確認してきた。用を足した後に拭(ふ)いたその葉っぱが長年わずらっていた痔ろうを軽減したり、焚付(たきつけ)用干し草が甘く、噛んでいるうちにのどの痛みや胃腸の不快感がとれたなどの経験が、やがて処方という形で書物に残され、私たちもその恩恵に大いに与(あずか)っている。
薬という字に草かんむりがついているのをみても、薬は病気を治す草であった。そのようなことを考えながら、緑が一斉に芽吹いた野山を散策するのも楽しいものだ。