『第543話』 【食塩の摂取過剰】降圧剤の効果に影響
最近は減塩運動の話を聞かなくなった。しかし、「健康日本21」には、「食塩は1日10グラム以下にしましょう」とうたわれている。国民栄養調査の結果では、日本人は平均13グラム程度を摂取している。食塩の取り過ぎは、確かに胃がんや高血圧の原因になる。しかし、食塩を摂取し過ぎると血圧が上昇する食塩感受性の人は約40%だ。また、逆に減塩すると血圧が上昇する人もいて、この件に関しては、全体的なデータと個別のデータを切り離して考えていく必要があるようだ。
生理学的に言うと食塩は1日1グラム摂取すれば十分。しかし、コレラのように体外に水分と食塩が出てしまう病態やマラソンなどで汗を大量にかく場合には、相当量の食塩を摂取する必要がある。体内の水分と食塩は常に一緒に行動していると考えていい。
体重60キロの人は約170グラムの食塩を持っている。これが、細胞外液中にほぼ一定濃度で分布している。人は常にこの濃度を一定に保つ機能があり、このため、1日に摂取した食塩量と同量が体外に排せつされている。仮に、食塩を取り過ぎたとすると、これを薄めるために水分を体内に貯留して食塩濃度を一定に保とうとする。これが、血圧を上げる1つの原因になる。しかしその後、減塩しても血圧が下がらないことがある。この原因物質として考えられているのがウワバインという生体物質だ。血管を水道ホースに例えれば、ホースの口をつまんだ状態にして血圧を上昇させたままにしてしまう。しかし、この他にも諸説があり、今後の研究を待たなければならない状況にある。
問題なのは、降圧剤を服用すると塩辛いものを食べたいという欲求が出てくるとする研究報告があることだ。一般的に、塩分摂取量を制限すると降圧剤の効果が増強するので、服用量の調整をする必要がある。
降圧剤を服用して、塩辛いものを食べたくなった人や減塩を考えている人は、主治医に報告して、適切な指導を受けてもらいたい。こうした患者さんからの報告が、さらに適正な医薬品使用に反映されている。