『第538話』 【麻疹【ましん】】大人になっても注意を
雪の上を子供たちが転げ回る光景はほほ笑ましいものだ。
しかし、大勢の友人と屋外で遊ぶ子供が少なくなってきていることや、その衛生環境が非常に良い状態で保たれていることが人の免疫力に変化を起こしてきている。
乳幼児期にほとんどの子供がかかる感染症に麻疹(ましん=はしか)がある。40歳以上の人であれば、顔や身体にできた湿疹(しっしん)に紫色の消毒剤ピオクタニンを付けられて、見た目が悪いと思った人も多いのではなかろうか。
さて、その麻疹が15歳以上で約20%を占めるようになり、大人の患者が増加する傾向にある。麻疹は1度かかると一生涯かからない終生免疫を獲得できるということが常識となっていた。しかし最近、乳幼児期に麻疹にかかり、大人になって再び感染する例が見られるようになってきた。麻疹ワクチンを接種したはずなのにと首をかしげることもある。
麻疹はどこにでもいる麻疹ウイルスによって起こる。感染経路もだ液が飛んで感染する飛沫(ひまつ)感染だけではなく、塵挨(じんあい)とともに空中を浮遊して感染を起こす飛沫核感染がある。このため、飛沫感染による風疹(ふうしん)よりも感染範囲が広がりやすい特徴を持っている。
実はこのことが終生免疫を獲得していく重要な点になっていた。1度感染すると、人は麻疹ウイルスに対する抗体を産生するようになり、免疫力がつく。
時がたつとこの抗体産生力は低下してくる。しかし、周囲にいる麻疹ウイルスのおかげで人体は常に刺激を受けて、抗体産生力が低下しないというわけだ。ワクチンの接種によって感染源になる総患者数が低下していることや、ほこりが立ちにくく進入しにくい住宅環境などによって、麻疹ウイルスに出合う機会が少なくなり、その副作用が出てきていると考えられる。
患者総数が減少してきているとはいえ、MMRワクチン(麻疹・おたふくかぜ・風疹混合ワクチン)の接種率が90%以上ある米国と比べると、少ないとは言えず、麻疹輸出国の指摘を受けている。
現状では、さらにワクチンの接種率を上げて根絶を目指すとともに、大人になっても麻疹になる可能性があることを情報提供していくしかないようだ。