『第531話』 【生薬】胃酸や菌が効き目に影響
「ブス」とか「ぶすっとした顔をして」などという表現は生薬の附子(ぶし)からきている。
附子は猛毒のアコニチンを含むトリカブトの塊根で、「毒と薬は紙一重」の代表格ともいえる。トリカブトの花から集めたはちみつを食べて死亡した人がいるほどだ。
毒性は強いが、冷えを伴う痛みや四肢関節のまひによく効く、効き過ぎると舌が縮み、口唇周辺がしびれ、よだれが流れたり、表情が乏しくなったりする。
それがぶすっとしたときの顔というわけだ。そうした顔つきになったとき、附子の中毒症状が出ていると昔の人は判断した。
生薬はよく効く人とそうでない人がいる。例えば附子は胃酸が薄まっていると効き過ぎる。高齢者は胃酸が出にくく、また胃薬を服用している人も胃酸を中和してしまうので附子の効き目は強く表れる。
甘草(かんぞう)に含まれるグリチルリチンは抗アレルギー作用や抗炎症作用を持ち、慢性肝炎やじんましんなどに使用される。服用した場合、腸内の特殊な菌に分解されて初めて活性化される成分だ。
大腸菌は個人の食生活や親から受け継いだ腸内細菌叢(そう)などを反映して、個性的な腸内環境をつくり出している。
大腸菌の中でも生薬を分解する菌は大いに個人差が出る。グリチルリチンを分解する大腸菌が少なければ甘草を含む生薬は効き目が甘くなる。
同様に下剤である大黄やセンナも分解する菌が決まっている。
しかし菌か少なくても漢方薬を飲み続けていくとその成分を分解する菌を選択的に増やすことができ、やがて、効果が表れてくる。
漢方薬は飲んでもすぐに効かないという理由の1つはここにある。
もちろん即効性のものもある。附子や麻黄(まおう)がそれだ。
麻黄に含まれるエフェドリンは気管支を広げる作用があり、激しいせきに使われる。
また抗生物質を服用すると、正常な腸内細菌が死滅して腸内環境が変わることがある。このような場合も漢方薬の効き目が弱くなることがある。