『第528話』 【薬の有効性】治験で慎重に積み上げ
GPS(グローバル・ポジショニング・システム)があれば、どこにいても簡単、正確に自分がいる場所を知ることができる。しかし、GPSは地球上の位置を示す道具で、このデータを地図に当てはめなければ何の意味もない。
58歳の伊能忠敬は、1800年蝦夷地・奥州街道の地図作製に自費で出かける。当時は測量といっても歩測。歩いて距離を測り、枝の先に羅針盤を付けた彎▲羅鍼(わんからしん)と梵天(ぼんてん)で方位を測った。測量計算はそろばんだ。1821年に弟子たちが受け継いで完成させた「大日本沿海輿地全図」を見ずに、74歳で亡くなったが、その出来栄えは素晴らしく、諸外国の人をうならせた(現在、映画「伊能忠敬-子午線の夢-」上映中)。
薬も同じように、もとは単なる化学物質だ。その性質や人に使ったときの効能や効果を知らなければ何の意味もない。
化学物質に薬としての有効性があるかどうか、動物実験でその候補が挙げられる。そして、薬の候補を薬にするために、有効性と安全性を確かめる「臨床実験」が行われる。この臨床実験のことを「治験」と呼んでいる。
治験には3段階があり、10~15年の歳月がかかる。その費用は50~100億円。
日本は治験に関して後進国。そのデータは外国で通用しなかった。
地図作りと違い、対象は人だ。治験に当たっての倫理を求めた「ヘルシンキ宣言」を尊重し、厚生労働省が定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準」(通称GOP)によって、国際的な対応を図っている。
初期のC型肝炎や慢性関節リウマチに使う鎮痛剤など、インターネットを使えば現在治験が行われている医薬品を検索することができる。
治験薬を扱う病院では、その適合性を審査して、使うことも可能だ。
宇宙飛行士の毛利衛さんは2000年2月にスペースシャトルに乗り、10日間で地球の立体地図を作るデー夕を収集した。そんな時代にあっても、治験によってゆっくりと確実に薬にするための有効性と安全性に関するデータが積み上げられている。
▲は「あな(穴)」に「果」。