『第510話』 【庭先の草花】疾病治療に役立つ妙薬に

庭先でよく目にする日々草(にちにちそう)が愛らしい花を咲かせている。園芸店でわずか数百円で売られているこの花は英名をロージーペリウィンクルといい、抗がん剤の原料になる。

もともとマダガスカル島が原産地で、探検家たちによって新大陸へともたらされた。そして1950年代に白血球を殺すビンカアルカロイドが発見された。現在ではビンブラスチンとビンクリスチンという2つの成分が分離され、白血球や各種の小児がんに使用されている。

釣り鐘様の花を房状につけるジギタリス(和名・きつねのてぶくろ)も安価に手に入り、ベランダなどでも簡単に育てることができる。これも.昔から欧州各地で体のむくみをとる伝統的な治療薬として知られている。

むくみの治療をするのは医師ではなく、村の年老いた女たちだった。当時は医者にもお手上げの患者たちを経験豊かな彼女らが速やかに治してく。

こうした奇跡の治療は尊敬のまなざしを浴びるどころか魔女の汚名を着せられる原因にもなった。

18世紀、ロビンフッドで有名なイギリスはシュロップシャーの森で、老女が行う治療を耳にした青年医師ウィリアム・ウィザリングは、医師のプライドをかなぐり捨てて、その卑しき治療なるものを見学に出かけた。

そこで見たのは、心臓の収縮力が弱り、これによって生じたむくみを改善するジギタリスの効果だった。

分離された成分のジゴキシンやジギトキシンは今でもうっ血性心不全の有効な薬だ。しかし身近にあるからといって専門家以外の人が煎(せん)じて使うことは絶対にしてはいけない。死に直結するほど危険だからだ。

庭先のケシはモルヒネこそ採ることはできないが、その花はアヘンを採るためのケシとなんら変わらない。

何気ない花をつけて楽しませてくれる草花たちが疾病の治療に役立っている。