『第684話』 【周期律表】眺めるだけで薬見える

100種類余りの原子を配列した周期律表が一時、中学校の理科の教科書から姿を消していたが、来年度から発展的内容として、再び掲載されることになる。来年度は、薬害防止など薬剤師が果たすべき役割が高まっていることなどを受け、薬学部の薬剤師養成コースが6年制になる年でもある。周期律表は、大学で受ける講義と実習の基本にもなる知識だ。

周期律表に載っている原子の中には、そのままで医薬品になるものもいくつかある。虫歯予防にフッ素、鉄欠乏性貧血の治療に鉄、そう病の治療にリチウム、味覚障害の治療に亜鉛、電解質の補給には.カリウムが、それぞれ使われるといった具合だ。

また、甲状腺ホルモンを作るにはヨウ素が必須で、身体を構成する要素としても、骨はカルシウムとリンが結合して作られる。意識はしないが酸素を吸って、炭素と酸素が結合した炭酸ガスを排出している。ナトリウムと塩素が結合した食塩は、血液や細胞の等張性を維持している。アミノ酸を作るには窒素、水素、炭素、酸素が使われる。特殊なアミン酸には硫黄が結合している。

逆に、それだけで毒性を表す原子もある。水俣病の原因となった水銀、骨代謝に異常を起こすカドミウムではイタイイタイ病が発生した。鉛も中毒を引き起こす。ヒ素は毒にもなるが北里柴三郎門下生の秦佐八郎は1911年、赤色色素の606号を使った実験で、梅毒の治療に効果があることを発見した。この色素は「ヒ素を含み、ヒ素が救い、健康にする」という意味でサルバルサンと名付けられ、初めての化学療法剤となった。28年に抗生物質ペニシリンが発見される前の出来事だ。

1869年、ロシアの化学者メンデレーエフは、陽子の数の順に原子を並べると物理的、化学的特性が周期的に変わることを発見した。周期律表は、この法則にのっとっているので「メンデレーエフの周期律表」ともいわれる。

周期律表の縦一列の原子群を「族」という。右から二列目にハロゲン族と呼ぶ一群がある。フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンだ。これらに水素を化合させると強力な酸になる。フッ酸はガラスを溶かすのでガラスの加工に使うが、当然、ガラス瓶には保存できない。塩酸は胃液となる酸で、胃酸は10円銅貨を溶かすことができる。

「水兵リーべ…」と語呂合わせで覚えられる周期律表は、眺めているだけで薬が見えてくる。中学生も来年度から、興味を持って教科書を見てほしい。もちろん機会があれば、今からでも周期律表を、眺めてもらいたいものだ。