『第685話』 【救急医療の現場】救命は時間との勝負に

兵庫県尼崎市のJR福知山線の脱線事故では、100人を超える尊い命が失われた。テレビには、人工呼吸を受けながら病院に搬送される負傷者が映し出された。恐らく救急医療の現場は、怒号の中で輸血用血液の発注や蘇生(そせい)用医薬品の名前が連呼されるなど、修羅場のような状況だったのではないだろうか。

このようなときに搬送されてくる負傷者に対しては心肺機能を調べた後、意識の有無を確認するために声を掛け、痛みや自覚症状を聞き取る。さらに衣服を脱がして打撲部位を確かめ、出血があれば止血処置を行う。触診とエックス線撮影で、骨折していないかどうかも確認する。輸血の前には血液型を検査しなければならず、輸血用血液や、手術をはじめ治療に必要な医薬品の発注、確認は薬剤師の仕事になる。

大災害時には、こうした流れが滞り、医薬品なども限られた中で救命措置を行うことが求められる。そのため、負傷者の重傷度と緊急性を判断して治療優先順位を決めるトリアージを行い、色分けしたトリアージタグ(識別票)を負傷者の体に付ける。災害や事故の後に起こることがある心的外傷後ストレス障害(PTSD)にも配慮する必要がある。

血圧が低下している場合、最初に投与する薬はアドレナリンだ。これで血液循環の維持を図る。ショック状態に陥っていれば、副腎皮質ホルモンも必要になる。出血が多ければ輸血するまでの間、細胞外液に組成が似ている、乳酸を加えたリンゲル液の点滴を行う。医師は、これらを瞬時に判断しなくてはならない。

事故は、いつ発生するか予想できず、命を救えるか否かは時間との勝負になる。そのため、救急救命士に気道確保のための気管内挿管や、医師の指示がなくても自動体外式除細動器(AED)を使用することが認められた。今では、市民もAEDを扱うことが可能になった。

ゴールデンウィークの真っただ中、出掛ける際には消毒薬や傷薬など最低限の医薬品は携帯するようにし、緊急時の心構えもしながら安全な行動を心掛け、楽しい休日にしてもらいたい。