『第689話』 【漢方薬】食間の服用で有効吸収

薬を渡すときに「食間に服用してください」と話すと、患者から「食事中にのむの?」と質問を受けることがある。そんなときは「いえいえ、食後2時間程度たってからのむんですよ」と答える。

食事してから2時間後には食べた物のほとんどが腸に移行して、胃の中は空っぽになっている。漢方薬は有効成分が少ない。もともと粘膜を保護するタンニン成分が含まれていて胃を荒らすことが少ないことから、十分に有効成分を吸収させるために食間の服用としている。

また、附子(ぶし)や麻黄(まおう)を含む漢方薬では、空腹時の胃内が酸性になっているために有効成分がゆっくり吸収され、副作用が軽減されることから、食間の服用にしている。

漢方薬は、数種類の生薬を組み合わせている。これを薄層クロマトグラフという方法で分析すると、有効成分ごとに数カ所の斑点に分離する。しかし、漢方薬に含まれている生薬ごとに分析した斑点と漢方薬にしたものをせんじてから得られる斑点の一部は一致せず、漢方薬の方だけに新たな斑点が現れることがある。つまり、新たな成分ができているということだ。この斑点は、漢方薬に配合された生薬を一つ除いただけでなくなってしまう。それほどよく考えて配合されている。現代のような科学的な分析手法がない時代に、よく経験則だけで微妙な処方を決めてきたものだと感心させられる。

現在は、「きざみ」と呼ぶ生薬をそのまま組み合わせた漢方薬を、朝に1日分、まとめてせんじるようなことはしなくなった。ご存じの通り、ほとんどがせんじて作ったエキス顆粒(かりゅう)剤だ。こうした漢方エキス顆粒剤を製造している製薬企業は、生薬の産地、時期などによって有効成分の含有量が微妙に異なるため、品質を見分け、一定の有効成分を含有するように製造、管理するのに非常に苦労している。

漢方薬を自己流で、症状別に2種類、3種類と服用する人がいるようだ。また、診療科ごとに出された別々の漢方薬を服用している人もいるが、有効成分の生薬が重複して危険なことがあるので一度確認した方がいい。薬局で相談するときは「お薬手帳」を見せてもらえれば調べやすい。

漢方薬は副作用がないと信じ切っている人がいるが、薬である以上は副作用がある。特に甘草(かんぞう)、麻黄、附子、柴胡(さいこ)などが含まれているものは十分な管理をしていく必要があるので、定期的に血液検査を受けることをお勧めする。