『第690話』 【健康食品】欲張り過ぎず自制必要

「きれいな花にはとげがある」とは、うまいことを言ったものだ。痩身(そうしん)、強壮、肌が若返る、痛みが取れるといった言葉には、人々を誘惑し引き付ける魔力がある。こうしたうたい文句に加え、何かの歌詞にもあった「分かっちゃいるけど、やめられない」という心理を、違法な健康食品はうまく利用している。

先月、全国各地で健康被害が発生していると公表された。内容はこうだ。ダイエット用食品として販売されていた中国製の「天天素清脂●嚢(てんてんそせいしこうのう)」に、マジンドールや日本では未承認のシブトラミンなどの医薬品成分が含有されていて、使った人に目まい、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛、頭痛、口の渇きなどの症状が発症。東京都は先月26日、この製品との因果関係が疑われる死亡例1件を報告した。

厚生労働省が今月3日に発表したところによると、平成14年からこれまでに中国製ダイエット用健康食品(未承認医薬品)による健康被害事例は766人に上り、そのうち4人が死亡している。

強壮の目的で性機能障害の治療に使うクエン酸シルデナフィルが、違法健康食品に含有されていることもある。この薬の添付文書には、色覚異常が起こることがあると書いてある。服用者の一部に重度の視覚障害が起こっていることが報告され、製造会社は注意事項に追加するかどうか、米食品医薬品局(FDA)と協議に入った。全世界で2,300万人が使用、38人の被害が報告されている。

製造会社はホームページで、糖尿病や心疾患で起こる視力障害と同様の症例が発生していること、因果関係は不明であること、FDAと協議中であることを公表している。医薬品をはじめ、特定保健用食品など法的な「お墨付き」を受けているものは科学的な裏付けがされ、使用者の安全を第一に考えて情報提供にも努めているが、違法健康食品のたぐいは、それらとは違うことを理解してもらいたい。

人の欲望はとどまるところがない。「足るを知る者は富む」(老子)、「少欲知足」(釈尊)と先人は言う。現代は情報があふれ、わが身と比較するものがあり過ぎるが、あまり欲張り過ぎないように自制を心掛ける必要がありそうだ。とげが刺さるぐらいであればいいが、命まで取られないように、ご用心を。

●は「にくづき」に「交」