『第692話』 【細菌性食中毒】手を消毒、手袋は交換を

今月12日、秋田市で100人を超える人に発症した集団食中毒の原因菌は、黄色ブドウ球菌とエロモナスと発表された。この混合感染は非常に珍しい症例だ。特にエロモナスによる食中毒は、微生物学の専門家でも巡り合うことはそれほどないだろう。

黄色ブドウ球菌は化膿(かのう)菌で、手の傷や鼻腔(びくう)内からの汚染によって、かつては、おにぎりなどに付着して起こった。最近は機械化が進み、市販されるおにぎりは手で握ることが少なくなったため、食中毒の原因菌としては全体の4%程度になっている。菌が作り出す耐熱性毒素のエンテロトキシンによって、摂食後数時間で腹痛、吐き気と嘔吐(おうと)、下痢が起こる。加熱しても耐熱性毒素のために毒性が失われないため、その前から食品を衛生的に取り扱うことが肝要だ。嘔吐などの激しい症状が早く出るために、原因菌を予想しやすい食中毒といえる。

エロモナスに属するエロモナス・ソブリアとエロモナス・ヒドロフィラは1982年、当時の厚生省が食中毒菌として指定した。エロモナスは、このほかエロモナス・キャビエ、エロモナス・サルモニサイダなど16種類に分類されている。河川や湖沼、また、そこに生息する魚介類、その周辺の土壌に常在している細菌で、病原性はさほど強いわけではない。

摂食して約12時間後に軽い下痢が起こる程度だが、まれに免疫力が低下している乳幼児や高齢者では激しい下痢や血便、腹痛が起こることがある。また、食中毒ではなく、傷口などから感染することがあり、壊疽(えそ)、心内膜炎、髄膜炎、尿路感染を引き起こす。

エロモナスが生息する可能性のある淡水系環境がないか、確認してみることも必要だ。特に注意すべき場所は、熱帯魚や金魚の水槽水だ。カエルなどの両生類に発症するレッド・レグ病の原因菌として81年にバチルス・ヒドロフィリスと命名されたが、その後、エロモナスと変更された経緯がある。

金魚など淡水魚のえらや表皮に付着すると、溶血毒のヘモリシン、ベロ毒素などによって血がにじんだような赤斑が現れ、内臓疾患や炎症を起こして衰弱死する。こうした水で、手が汚染されることにも注意したい。

細菌性毒素型の食中毒を防止するためには、よく手を洗って消毒し、ビニール手袋は適時交換しながら使うよう心掛け、衛生的な環境で調理することが重要だ。