『第693話』 【心といのちの処方箋】これからの成果に期待

本県の先月1日時点の人口は115万1千127人。全国の人口は平成12年の統計で約1億2千693万人。それ故に全国のさまざまな統計数値を100分の1にして比較すると、本県のおおよその状況が把握できる。

一昨年の全国の自殺者数は約3万4千500人(警察庁調べ)。県内は559人(県警調べ)で、非常に多いことが分かる。また、昭和50年から平成16年までの本県の自殺率(人口10万人当たり)は7位が1回、3位が4回、2位が5回、1位は20回に上り、平成7年からは10年連続で1位。昨年の全国の交通事故死者は7千358人で、それと比べてもいかに自殺者が多く、とりわけ本県で問題視しなければならないかがうかがえる。

本県では同13年に策定した「健康秋田21計画」に自殺予防という項目を設け、10年間で自殺者を30%減少させる目標を掲げた。県健康づくり推進条例の18条には「県は、県民の心の健康の保持及び自殺の予防を図るため、市町村及び健康づくり関係者と連携し、県民からの相談に応ずるために必要な体制の整備、啓発活動等を行うものとする」と記し、自殺予防対策に真剣に取り組んでいる。

このたび、こうした活動なども紹介した「秋田大学自殺予防研究プロジェクト 心といのちの処方箋」(本橋豊編、秋田魁新報社刊)が出版された。本書は自殺の原因の追究よりも、精神医学的な観点から自殺直前に見られる心理的な異常を重視。うつ病患者らへの自殺防止対策の重要性を訴え、公衆衛生学でいう第2次予防(早期発見、早期治療)および、その前の段階である第1次予防(健康教育など)に取り組んでいる保健所、自治体などの事例を報告している。自殺予防への有効性を中間報告するまでに至っていないとしているが、取り組みを進めていく上での指針を示す参考書。(処方せん)となっている。

昨年の県内の自殺者494人の自殺原因は生活経済、病苦、精神障害の順番で、医療と関係のある病苦、精神障害を合わせると248人と半数以上を占めている。また、年代別では60歳以上が約4割になっている。

人は苦しくつらい思い出が残りやすく、それにとらわれる習性がある。これは外敵から身を守るために備わった自己防衛の本能とも思える。しかし、つらいことだけでなく、楽しい思い出も必ずあるはずだ。つらい思い出を良い思い出に転化できることもある。本県で進んでいる「心といのちの処方箋」づくりが成果を上げることを期待したい。