『第694話』 【アスベスト】暮らしの場から隔離を

アスベスト(石綿)を業務で取り扱ってきた人などに健康被害が発生していた多くの事実が公表され、問題となっている。アスベストは、悪性中皮腫(胸膜、心膜、腹膜に発生するがん)や肺がんを引き起こし、発病するまで20~50年かかることから「静かな時限爆弾」といわれる。

20年ほど前、アスベストの空気環境測定をしていたことがある。今でも測定方法は、当時と変わらない。特殊なフィルターを使って、空気をこし取って集めたアスベストを顕微鏡で見て、アスベスト繊維の本数を数えるというものだ。当時から、より確実なエックス線回折法があったが、分析機器が高価で買えなかった。

アスベストは天然鉱物から得られる繊維で、耐熱性、耐摩耗性、耐電性、防音性、断熱効果などの特性を備えている。その特性から、ギリシャ語で「永遠不滅の」を意味する「アスベストス」が語源になっている。

1980年、世界保健機関(WH0)はアスベストを肺がん物質と認定したが、建材などに吹きつけて断熱材として利用してきたものは放置されてきた。また、車のブレーキなどにも利用され、公害として問題視されたことがある。このほか、アスベストが使われてきた製品は3,000種類以上あるといわれている。身近な例として、ダルマストーブの煙突を屋外に出すときに壁にはめ込んだ「灰色の眼鏡板」や、理科の実験でアルコールランプで加熱するときに使った石綿付きの金網などがある。

アスベストは単一の鉱物ではなく、6種類に分類される。主成分はケイ酸マグネシウム塩で、髪の毛の5,000分の1という非常に細い繊維状をしている。容易に肺の細胞に突き刺さり、DNAを傷つけて肺の細胞機能を侵し、がん化させる。いったん肺に蓄積したアスベストを取り除くことはできない。そのため、病状は進行していくばかりだ。発症した場合には抗がん剤の投与などが行われる。しかし、治癒は難しく健康被害は深刻だ。

阪神淡路大震災の時には古い家屋が倒壊し、アスベストによる粉じんの発生とその被害が心配された。怖い話だが日本人の肺を調べれば量的な違いはあるにせよ、ほぼ全員にアスベスト繊維が見つかると考えていい。今後、同様の被害が発生する可能性があり、大量に使われてきたアスベストを生活の場からいかにして隔離するか、真剣に取り組んでいく必要がある。