『第696話』 【テロ対策】医薬品供給の体制必要

「NBCテロ対策」といっても、何のことだ?と首をかしげる人の方が多いだろう。「日本人は平和ぼけしている」と外国から批判されることがあるが、平和ぼけしていられる状況の方がいいはずだ。とはいえ、政府には隣国との関係悪化を想定し、国民の生命と財産を守るために非常時の対応策を具体的に確立しておく義務がある。

NBCの「N」は核物質(nuclear materials)、「BC」は生物化学兵器(biological and chemical weapons)を意味し、核、生物、化学兵器を総称する言葉として使われる。

核物質による被害を最も知っているのは日本人だ。ただし、原爆や水爆を製造するのは難しく、テロリストはほかの方法を考えている。それがダーティーボムだ。放射性物質を詰めた爆弾を爆発させて、空中に広範囲に拡散させる。あるいは、食品や飲料水に混入させるという方法だ。

人的被害は甚大で、被ばく量にもよるが疲労感、下痢といった急性症状から脱毛、皮膚障害へ移る。障害は数年にわたることもあり得る。汚染地域へは長期間、立ち入ることができない。また、汚染した衣服で医療関係者も二次被害を受ける。従って、体をよく洗い、着替えてから医療機関で受診する必要がある。

こうしたテロに備え、医薬品の供給体制を整える要望が各方面から、日本薬剤師会や県薬剤師会に寄せられている。核爆発や原発事故では放射性ヨウ素が大気中に放出される。この被害を予防するヨウ化カリウム製剤を短期間に数十万人分調整し供給することが可能か「あるいは放射性物質の分析はどうするのか、といったことは薬剤師職能の分野になる。

平成7年の地下鉄サリン事件は、化学兵器テロとして忘れ難い事件だ。もし県内で同様の事件が起きれば、そうした化学物質を速やかに分析するのは難しく、対応が遅れるだろう。高度な分析機器と必要な訓練を受けた分析者が、十分に確保されていないからだ。さらに毒物による中毒の治療法や解毒剤に関する情報を収集し、即座に回答できる体制を整備してほしいという声もある。

国連常任理事国となり、世界の中核として国際的な貢献をするためには、こうした危機管理体制を整備する必要もある。相当の費用がかかるが、国民の理解を得て非常事態時の訓練も行っていく必要があるのではなかろうか。