『第698話』 【大腸がん】早期の発見、治療が重要

血液検査から、さまざまな病気が予想できるようになった。しかし、これも検査をすればの話で、自覚症状があってからでは手遅れということもあり得る。

個人差はあるが、女性であれば月経周期ごとに平均130ミリリットルの出血があるので、男性よりも鉄欠乏性貧血になりやすい要因を持っている。男性の場合は、極度の食事制限や何らかの痩身(そうしん)用健康食品による栄養障害といった鉄分の摂取量不足による貧血がない限り、別の疾患が疑われる。

親友は、少量の下血が続いたが痔(じ)と思っていたそうだ。ある日、外出先のトイレでおしっこが終わっても、片脚に何かが流れる感触を覚えた。それは血だった。家に戻り、着替えてまた出掛けたものの、めまいがして帰宅、トイレの前で意識を失った。下半身は真っ赤に染まり、家族が呼んだ救急車で運ばれた。日ごろ、健康診断を受ける機会もなく、貧血が起こっている。ことも分からなかったのだろう。明らかに、失血と貧血によるめまいと意識障害だ。

診断結果は直腸がん。それも早期ではなく、粘膜層から筋肉層への浸潤が見られた。肛門(こうもん)から3センチほど指を入れると病巣に触れる。大腸がんの発生部位はS状結腸が約25%、直腸が約50%で、ほとんどが肛門に近いこの位置にできる。多くは潰瘍(かいよう)限局型の腺がん。80~90%がリンパ節に転移しにくいタイプで、手術後の成績も良好だ。しかし、病理検査の結果は転移の心配が残るタイプだった。がんの位置なども考え、ストーマの形成術が必要となった。

ストーマとは、ギリシャ語で「口」を意味し、1908年にウイリアム・E・マイルスによって考案された人工肛門だ。現在は改良が進み、不自由なく日常生活を送ることができる。

こうした情報は、彼の術前説明書に図解入りで詳しく書いてあった。ここまで分かりやすく説明する時代になったのかと思い読んだのだが、それでも彼は難解だという。義務教育の中で、将来必要になる基礎的な医学知識を教える必要があるのではないか。

排便という本来の生理的機能を失うつらさは、どのように慰めようと同じ経験者でなければ、和らげることはできないかもしれない。そこには、医学や薬学を超越した世界があった。

大腸がんは、自覚症状がほとんどない。欧米型食生活の改善、禁煙で予防に努め、便潜血や貧血検査を含む定期検診によって早期発見・早期治療を図ることが重要だ。