『第702話』 【薬識】順序よく理解し実践を

「薬の話」というと服用する時間、副作用といったことが、どうしても中心になりがちだ。一方で薬の効果・作用の話となると、どうも理解しにくいところがあるようだ。当センターの電話相談でも、それについて順を追って説明することもしばしばだ。

1時間程度で、すべての薬の効果について話すことはできない。治療方法の多くは薬物療法で、病気の種類以上に薬の作用する場所は体の至る所にあるからだ。そこで、薬の効果・作用を理解するための道筋をご案内したい。

薬の効果が理解しにくい理由に、知識を得る順序が悪いことが挙げられる。初めに知る必要があるのが解剖学。義務教育崖受け、人体の構造(解剖学)はある程度知っているはずだ。しかし、生活習慣病を理解するために必要な膵臓(すいぞう)の位置などは、分からないと答える人が多い。

解剖学の次には、生理学の知識が必要になる。三大栄養素、ビタミン、ミネラルが体内でどのように働くかなど、体内で起こっている「生(命)の理(ことわり)」を知ることが大切になる。体の仕組み(生理学)が分かると、病気の知識(病識)がすんなり入ってくる。正常な生理作用が崩れることを病気と呼ぶ。

さて、そうしたことが分かり、糖尿病や高血圧などの講演会場から、いかにも納得したという顔つきで出てくる人がいる。しかし、人には欠点があり、長年の生活習慣を変えるのは難しい。せっかく講演会で食事療法や運動療法を聞いても、実践しなければ病気は治癒に向かわない。

解剖学、生理学の後に薬理学という薬の話になる。この薬理学はある物質が体内に入り、吸収・分布・代謝・排せつされていく過程で物質がどのように変化し、生体が反応するのかということを調べることが目的で、治療を主目的としている学問ではない。生理活性の強い物質を調べる中毒学も、薬理学の一部として見ることができる。

以上の知識を総括すると、臨床薬理学という学問が成立する。薬の有効性と安全性を確立しようとする学問だ。この一連の流れを知ると、効果・作用などの薬の知識(薬識)が理解しやすくなる。

亡くなったミヤコ蝶々さんが、いつも「何という字」と聞くものだから、相方の芸名が南都雄二になったという逸話がある。薬について疑問があったら、主治医や、かかりつけの薬剤師に理解できるまで繰り返し質問し、その場で解決するようにしてほしい。そうして知り得た情報を知恵として実践することが、病気を克服する近道になる。