『第705話』 【糖尿病治療薬】「食直前服用」タイプも

県内でもお米の刈り取りが終わったようだ。農家にとっては手塩にかけて育てた1年の成果が問われる時期でもあり、毎年のことではあってもそれぞれの思いがあることだろう。

やはり、新米をまきで炊き上げたときの香ばしい香りはいいものだ。そして、もぐもぐとかみしめるたびに甘味が増してくる。これこそ、わたしたちの命を支える根源となる物質へと、お米が変化して,いる証しだ。

お米は三大栄養素の一つ、炭水化物のでんぷんが主成分だ。でんぷんは、唾液(だえき)に含まれるアミラーゼという消化酵素によって糖に分解されるので甘く感じる。同様に膵臓(すいぞう)からも違うタイプのアミラーゼが分泌され、さまざまな酵素によってブドウ糖にまで分解して、小腸から吸収する。そのブドウ糖はエネルギーとなる。

膵炎や、涙腺や唾液腺を異物として認識してしまう自己免疫疾患で難病指定のシェーグレン症候群が起こると、血液中のアミラーゼの値が上がる。アミラーゼのタイプを調べればどちらか判断できるが、膵炎であることがほとんどだ。

さて、でんぷんをアミラーゼで分解すれば、すべてが一度にブドウ糖になるわけではない。糖といっても、さまざまある。砂糖(しょ糖)はブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が結合した二糖類といわれる糖だ。同様に麦芽糖(マルトース)はグルコースが二分子結合しているし、乳糖(ラクトース)はカラクトースとグルコースが結合した糖だ。

一分子でできている糠を単糖類という。単糖類の糖が8個以上結合した糖を多糖類という。人にとって重要な多糖類の代表がグリコーゲンで、過剰摂取したエネルギーはグリコーゲンとして蓄えられ、膵臓からグルカゴンというホルモンが分泌されるとブドウ糖に分解されて血糖値を上げる。

炭水化物を食べたときに重要なのが、腸管で二糖類を単糖類に分解するα-グルコシダーゼという酵素の働きだ。この酵素が働かなくなれば、ブドウ糖にまで分解されなくなるので血糖値が下がる。アカルボース、ボグリボースといった薬はα-グルコシダーゼの作用を阻害するが、根本的な糖尿病治療薬の作用とは少し異なる。炭水化物がブドウ糖になる前に、それらの薬を服用する必要があり、それが「食直前服用」という服薬指導を受ける理由だ。