『第706話』 【注射針】痛み感じない「極細」も

白衣を見ると必ずといっていいほど、子どもはぐずるか泣き始める。自分自身もそうだった。「あっ来るな!」。注射器を見て大声を上げて泣いたものだ。

9歳のときにジフテリアの抗血清療法を受けた。太ももの筋肉に刺された注射針は畳針のような太さで、痛いというよりは筋肉を締めつけられるような感覚だった。

注射器は1853年にフランスの医師ガブリエル・プラバースが考案した。彼は動脈瘤(りゅう)を治療するために、塩化鉄の水溶液を皮下注射して成果を得た。

それ以前にもイギリスのクリストファ・レンが1656年に犬の静脈に薬物注入を試み、新たな方法として注目された。その時の注射器はアシの茎で作った針に、薬を魚の浮袋に入れてくくり付けた器具だった「現在のような使い捨てのプラスチック製注射器が登場したのは1961年で、感染症予防の観点から重要な役割を果たしている。

注射針の太さを表現するのにG(ゲージ)を使う。Gは、長さや太さを示すミリメートルといった単位ではない。もともとワイヤが細いか太いかという指標として使われてきたものだ。細い針ほど数字が大きくなる。

効果が持続するように徐々に放出される粒子を含む注射液や、全血輸血のように赤血球を体内に入れるときには18G(外径1.2ミリメートル)という太い針を使うこともある。また、皮下脂肪が厚い人や深部の筋肉に注射するために長さが6センチもある針を使うこともあり、見ただけで卒倒してしまいそうだ。

一型糖尿病の人は食事のたびにインスリンを自己注射する。この苦痛を和らげるために、最近33G(外径0.2ミリメートル)という非常に細い針が開発された。これだとほとんど刺された感覚はなく、当然痛みもない。

針の先をどのような角度にするかも使用目的で違う。歯科麻酔用の針は抜けにくいようにルアーという注射筒と針をロックする仕組みになっていて、直角に近い形で刺すので鈍角(25度)に研いである。皮下や筋肉注射用だと12~14度だ。

病院で何の薬を注射されたか、知らない人がほとんどだろう。そこで退院時に、薬剤師が退院後の服薬指導を行う「退院時服薬指導」を実施する病院が増えてきた。その内容を「お薬手帳」に書き込み、病院でどのような治療を行ったか、患者がかかりつけ医やかかりつけ薬局・薬剤師と共通認識を持ち、継続して治療を受けられるよう医療連携が図られている。