『第710話』 【抗インフルエンザ薬】説明受け適正な使用を

最近の抗インフルエンザ薬リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)に関する一連の報道を見ると、過剰反応といわざるを得ない。

16年度のインフルエンザワクチンの推定出荷本数は約1,598万本。乳幼児では2回接種になっているので同人数が接種したということではないが、このうち副作用の報告は113症例、205件ある。死亡例は60代男性が1人、70代の男性1人と女性2人だ。この評価結果によれば「ワクチン接種との因果関係を否定することはできない」が2例、「ワクチンとの因果関係は否定的と考える」と「現時点では評価できない」が1例ずつになっている。

一方、過去の調査から毎年50~200人のインフルエンザ脳炎・脳症患者が報告されていて、その約10~30%が死亡している。これらのデータを根拠にインフルエンザワクチンの接種が推奨されている。

医療・薬業の世界では100万に1例の副作用死が発生しないよう常に監視し、異常が発生した場合に備えて早急な対策がとれるよう連絡網が整備されている。そうした情報は、社会を恐怖に陥れるためにあるのではない。

リン酸オセルタミビルの消費量は、日本が世界の7~8割を占める。そうした中で米国食品医薬品局は、日本に多くの死亡例が発生していることを指摘した。その因果関係にはさまざまな憶測があり、議論が展開されている。明確な結論が出るまでは数年かかると思われる。

副作用に関して、厚生労働省は16年6月の「医薬品・医療用具等安全性情報」の中で、リン酸オセルタミビルの使用によって精神・神経症状があらわれることがあるとし、医療関係者に注意を促している。抗ウイルス薬で、こうした精神神経症状が出た事例は過去にもある。C型肝炎の治療薬であるインターフェロンでは、自殺行為を引き起こす副作用があり注意が促された。

国家備蓄を急ぐ背景には、新型インフルエンザによる急速な感染拡大が心配されていることがある。しかし使用例が少なく、リン酸オセルタミビルが新型インフルエンザに有効かは不明な点が多い。

全世界的なバランスを見ながら備蓄を進めることも必要だが、それ以上に感染予防や養生などについて啓発するとともに、インフルエンザ罹患(りかん)時には抗ウイルス薬を使うべきか、十分に医師の説明を受けて適正に使用し、耐性ウイルスの出現などにつながらないようにすることが必要だ。